革製品のオーダーメイド 銀座 オーソドキシー

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2003.10.5

オーダーストーリー6

ストーリー6:使えないバッグ・・・のお話

以前、「バッグや小物の種類だけ、技術の数があると思ってください」と書いたのですが、そのとてもいい例をお話しましょう。

あるとき、お手持ちのバッグの他に、紙袋にもうひとつ、未使用らしきバッグを提げていらしたお客様がご来店なさいました。

「前に、オーダーができるというお店をインターネットで探して、オリジナルのバッグを注文したのですが・・・」 とお客様。
紙袋からおもむろにバッグと紙を取り出すと
「こんなふうに絵を描いて、お店の人に見せたんですが、こういうバッグに仕上がってしまったんです」
正直に云いますが、私は一瞬絶句してしまいました。
(こ、これかあ・・・・・・。カッコ悪い・・・。お客様に似合ってな~い)
しかし次の瞬間、気を取り直すと、じっくりと見直してみて(ある意味で)納得してしまいました。とりあえず絵のとおりではあるのです。共感できる部分もなくはないので(つい奥歯にもののはさまった言い方になってしまいますが)、いくつかお客様に確認してみました。

「あのう・・・ひょっとしてこんなふうに作ってほしい、とお考えだったのでは?」と、店内にあった形の近いバッグと、私がその場で描いたスケッチをお見せしました。
「そうそう、まさにそれなんですよ!」
「ご注文なさったとき、実際に製作する職人に、お会いにならなかったんですね。」
「はい。メールで画像を送って相談したんですが」
「そのときのやりとりは何回くらい?そこでどんな質問を受けましたか?」
「できあがりの寸法も全て描いておいたので、むこうからの質問は、ほとんどありませんでした。ちなみに、この外ポケットには、文庫を入れようと思っていたのですが、私が指定した寸法では、結局ヨコ幅がギリギリで、深さは逆にありすぎて、すごく使いにくくなってしまいました。何より全体にカッコ悪いので、一 度も使ってないんです。」
「(うんうん、わかるなあ) でも、いちおうスケッチ画と同じように出来上がってはいますよね。決して、これを作った職人の味方をするわけではないんです が、こうなってしまったのは、ある意味仕方ないですね。」
「はあ~、そういうものですか」
「はい。なぜかというと、まず技術面のことをお話しなくてはなりませんけれど、そもそもバッグというものは・・・・・・」
以下、かなり長い説明になりましたが、お客様は、ご熱心に私の話に、耳を傾けてくださいました。かいつまんで言うと、こういうことになります。

私たちは普段、ひとくくりに「バッグ」と言ってしまいますが、実はバッグを細かく分類してみると、かなりの数になります。
革を扱う技術というものも、それと同じように細分化されていて、それぞれの分野の技術が、重複し共有される部分というのは、かなり限られています。
たとえば、メンズバッグの中でも、書類カバン、ショルダーバッグ、旅行カバン、クラッチバッグなど、いろいろありますけれど、書類カバンひとつとっても、 フラップ式のブリーフケース、ダレスバッグ、ファスナータイプなど、更に多くに分類されます。
一般的に、普通の職人はそのうち数種類ていどの技術を、一生かかって極めてゆきます。ですから、「生涯ワンアイテム」という人がほとんど、というのが現実 です。
今回の場合、ふたとおりの作り方が考えられるのですが、それぞれのやり方で作ってみると、まったく違った出来上がり、違ったデザインに見えるはずです。
このバッグを作った職人は、一方のタイプのみの技術の持ち主である可能性が高く、もうひとつのタイプの作り方が思い描けなかったのだろうと推察します。先 ほどご説明した「生涯ワンアイテム」ということから考えると、ありそうなケースです。
私が「ある意味で」納得してしまったのは、そのような理由からなのでした。

私は続いて、こう申し上げました。
「私でしたら、お客様がなぜ、その仕上がり寸法をご指定になったかを、必ずお尋ねします。
外寸は、デザイン的な要請を別にすれば、内寸から導き出される必然の数字にすぎませんから、中に何をお入れになりたいか、を確認します。
同じようにして、外ポケットの寸法についても、アドバイスさせていただきますし、場合によっては、『この寸法だと、外ポケットふたつは付きませんよ』などという予測もできたと思います。
こうしたコンサルティングをすることによって、『使えないバッグ』になる可能性は激減します」

重要なのは、どういった製作方法を選択すれば、いちばんお客様のご希望に叶うデザインになるか、ということです。これは、あらゆる工程上のテクニックを駆使できてはじめて、判断を下せるのです。

「なるほど、そう言われてみると、こちらのお店には、いろんな製品がありますねえ」
「はい。ご覧のように、おサイフやメガネケースなどの小物から、メンズ、レディースのバッグまでが、ごく自然に並んでいるでしょう。もしこれが、あちこちから仕入れをして揃える小売店であれば当然なんでしょうけど、作って売る店としては、本当はすごく珍しいことなんですよ。
作って売る店にとってのショウウインドウは、どれだけ巾広いテクニックを持っているか、というアピールの場なんです。
しかも、当店の職人は、全員が全員、段階に差はありますが、全てのテクニックを身につけるよう訓練されています。
そうしたバックボーンがあってはじめて、いろいろな技術をクロスオーバーさせて、既製品にないデザインのものができ、お客様のイメージも、正しく反映されるんです」

幸い、お客様には深くご理解いただけたご様子でした。
「リベンジですね」といいながら、快く(同じ形のバッグを)ご注文いただきました。もちろん、細かな打合せの上、合理的なデザイン面でのアレンジがなされたことは、云うまでもありません。

美しく、センスを感じさせるバッグは、必ず100%の技術のエッセンスに裏打ちされています。これは、もの作りすべてに通じることです。
いいバッグ、いい職人との出会いをご提供することで、お客様が快適な生活を送るためのお手伝いができたら、と願ってやみません。

後日、ピックアップにいらしたお客様。
「すてき~。思ったとおりです。これだったら、荷物の少ない日のために、同じデザインでもう少し小さいのも欲しいわ、、、」
とのご感想。ありがとうございました。

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