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オーダーストーリー7
2003/10/05ストーリー7:フルオーダーはギャンブル?のお話
当店で行っている「オートクチュール」なるもの、和製英語で言うところの「フルオーダー」なのですが、今日はみなさまに最良の活用方法をお教えしましょう。
毎年3月ぐらいになると、新入社員になる方がお見えになる事がよくあります。同じようなやり取りが交わされますので、みなさまにそれをご紹介いたします。
「4月から就職するので、きちんとしたカバンを作りたいのです。」
4月就職かぁ・・・今はまだ学生さんですよね。仕事に対する意気込みを感じます、うんうん。
「どんなカバンをお作りになりたいのか、はっきりしているのなら、おっしゃるとおりにお作りすることはできます。ただですね、まだ配属が決まっていなかったり、どんな物を持つかが定まっていないと、そのデザインや仕様が目的に叶ったものなのかどうかはわかりませんよ。」
コンサルティングの予約シートには、年齢、職業、服装、こだわるところ、趣味などを記入していただくようになっています。
これらは、決して個人的な興味から書いていただく訳ではなく(笑)、また、店としてお客さまのデータベース化のために伺っているものでもありません。
すべては、より良いコンサルティングのための予備知識なのです。
コンサルタントは、こんな職業で服装の方ならば、この辺のデザインかな?とか、お持ちになる荷物量と使い方からこうかしら?といった予測をして、お客さま を迎える準備をします。
そして、そのコンサルティングに一番大切な事といっても過言でないのが、過去にそのお客さまが使ったバッグの履歴なのです。
ある程度の年月をかけて、自分の仕事のやり方、あるいは休日の過ごし方が定まると、自分が一番使いやすかったバッグはどれだった、という役立つ情報が出てきます。
「あれは使いにくくて失敗だった・・・」と嘆くお客さまはずい分といらっしゃいますが、実は履歴あってのオーダー。使いにくかった原因を追及すれば、決して失敗でも無駄でもありません。どのタイプが自分に適しているのか、いろいろと使ってみない限りは、実際にはわかりませんから。
という訳で、こういったまだ履歴のないお客さまには「ナイロンなどで充分ですから、オーダーする気持ちをお持ちでしたら、まずはこれが良さそう、という型 見本をいくつか使ってみて、もう一度いらっしゃいませんか。」とお話します。
今回のお客さまも、まずはオーソドックスな名刺入れからご注文いただきました。
バッグについては、きっといろいろと考えていらっしゃるに違いありません。
同じ理由で、お札を二つ折にして入れるおサイフを使っている方が、長サイフを使った経験がなくて、長サイフのご注文をなさる場合、
「まずは安いものでいいので、何か既製品を使ってみてください。今まで二つ折を使っている方だと、小銭入れが別になったり、札入のサイズが大きく感じたりと、使い勝手が合わない事があるんですよ。」と申しあげます。
「売ってくれないお店は初めてです」なんて言われたこともありますが、ファースト・オートクチュールには大切にしたいもの。
正しい方法で注文してくだされば、一生何かを探したり、たくさんのものを捨て続けたりしないで、快適な気持ちを味わうことができます。
ただし、今まで使ったことのないタイプをオーダーでお作りする時には、ギャンブル的な要素が生じます。どんなに製品として完璧にお作りしたとしても、その方に合わない恐れがあるのです。これは製品の完成度以前の問題です。
保守的な考え方ではありますが、オートクチュールというシステムをうまく使いこなす一番の方法は、現在自分が使っているもののなかから(多少の不満はさておき)、 「なぜか最も出番の多いもの」をコンサルタントにお見せいただいて、ご相談いただくことです。
つまりは、ほかの誰でもない、自分の使い方にあっているかどうか、予測のつく範囲のものをご注文いただくのであれば間違はないということです。

オーダーストーリー6
2003/10/05ストーリー6:使えないバッグ・・・のお話
以前、「バッグや小物の種類だけ、技術の数があると思ってください」と書いたのですが、そのとてもいい例をお話しましょう。
あるとき、お手持ちのバッグの他に、紙袋にもうひとつ、未使用らしきバッグを提げていらしたお客様がご来店なさいました。
「前に、オーダーができるというお店をインターネットで探して、オリジナルのバッグを注文したのですが・・・」 とお客様。
紙袋からおもむろにバッグと紙を取り出すと
「こんなふうに絵を描いて、お店の人に見せたんですが、こういうバッグに仕上がってしまったんです」
正直に云いますが、私は一瞬絶句してしまいました。
(こ、これかあ・・・・・・。カッコ悪い・・・。お客様に似合ってな~い)
しかし次の瞬間、気を取り直すと、じっくりと見直してみて(ある意味で)納得してしまいました。とりあえず絵のとおりではあるのです。共感できる部分もなくはないので(つい奥歯にもののはさまった言い方になってしまいますが)、いくつかお客様に確認してみました。
「あのう・・・ひょっとしてこんなふうに作ってほしい、とお考えだったのでは?」と、店内にあった形の近いバッグと、私がその場で描いたスケッチをお見せしました。
「そうそう、まさにそれなんですよ!」
「ご注文なさったとき、実際に製作する職人に、お会いにならなかったんですね。」
「はい。メールで画像を送って相談したんですが」
「そのときのやりとりは何回くらい?そこでどんな質問を受けましたか?」
「できあがりの寸法も全て描いておいたので、むこうからの質問は、ほとんどありませんでした。ちなみに、この外ポケットには、文庫を入れようと思っていたのですが、私が指定した寸法では、結局ヨコ幅がギリギリで、深さは逆にありすぎて、すごく使いにくくなってしまいました。何より全体にカッコ悪いので、一 度も使ってないんです。」
「(うんうん、わかるなあ) でも、いちおうスケッチ画と同じように出来上がってはいますよね。決して、これを作った職人の味方をするわけではないんです が、こうなってしまったのは、ある意味仕方ないですね。」
「はあ~、そういうものですか」
「はい。なぜかというと、まず技術面のことをお話しなくてはなりませんけれど、そもそもバッグというものは・・・・・・」
以下、かなり長い説明になりましたが、お客様は、ご熱心に私の話に、耳を傾けてくださいました。かいつまんで言うと、こういうことになります。
私たちは普段、ひとくくりに「バッグ」と言ってしまいますが、実はバッグを細かく分類してみると、かなりの数になります。
革を扱う技術というものも、それと同じように細分化されていて、それぞれの分野の技術が、重複し共有される部分というのは、かなり限られています。
たとえば、メンズバッグの中でも、書類カバン、ショルダーバッグ、旅行カバン、クラッチバッグなど、いろいろありますけれど、書類カバンひとつとっても、 フラップ式のブリーフケース、ダレスバッグ、ファスナータイプなど、更に多くに分類されます。
一般的に、普通の職人はそのうち数種類ていどの技術を、一生かかって極めてゆきます。ですから、「生涯ワンアイテム」という人がほとんど、というのが現実 です。
今回の場合、ふたとおりの作り方が考えられるのですが、それぞれのやり方で作ってみると、まったく違った出来上がり、違ったデザインに見えるはずです。
このバッグを作った職人は、一方のタイプのみの技術の持ち主である可能性が高く、もうひとつのタイプの作り方が思い描けなかったのだろうと推察します。先 ほどご説明した「生涯ワンアイテム」ということから考えると、ありそうなケースです。
私が「ある意味で」納得してしまったのは、そのような理由からなのでした。
私は続いて、こう申し上げました。
「私でしたら、お客様がなぜ、その仕上がり寸法をご指定になったかを、必ずお尋ねします。
外寸は、デザイン的な要請を別にすれば、内寸から導き出される必然の数字にすぎませんから、中に何をお入れになりたいか、を確認します。
同じようにして、外ポケットの寸法についても、アドバイスさせていただきますし、場合によっては、『この寸法だと、外ポケットふたつは付きませんよ』などという予測もできたと思います。
こうしたコンサルティングをすることによって、『使えないバッグ』になる可能性は激減します」
重要なのは、どういった製作方法を選択すれば、いちばんお客様のご希望に叶うデザインになるか、ということです。これは、あらゆる工程上のテクニックを駆使できてはじめて、判断を下せるのです。
「なるほど、そう言われてみると、こちらのお店には、いろんな製品がありますねえ」
「はい。ご覧のように、おサイフやメガネケースなどの小物から、メンズ、レディースのバッグまでが、ごく自然に並んでいるでしょう。もしこれが、あちこちから仕入れをして揃える小売店であれば当然なんでしょうけど、作って売る店としては、本当はすごく珍しいことなんですよ。
作って売る店にとってのショウウインドウは、どれだけ巾広いテクニックを持っているか、というアピールの場なんです。
しかも、当店の職人は、全員が全員、段階に差はありますが、全てのテクニックを身につけるよう訓練されています。
そうしたバックボーンがあってはじめて、いろいろな技術をクロスオーバーさせて、既製品にないデザインのものができ、お客様のイメージも、正しく反映されるんです」
幸い、お客様には深くご理解いただけたご様子でした。
「リベンジですね」といいながら、快く(同じ形のバッグを)ご注文いただきました。もちろん、細かな打合せの上、合理的なデザイン面でのアレンジがなされたことは、云うまでもありません。
美しく、センスを感じさせるバッグは、必ず100%の技術のエッセンスに裏打ちされています。これは、もの作りすべてに通じることです。
いいバッグ、いい職人との出会いをご提供することで、お客様が快適な生活を送るためのお手伝いができたら、と願ってやみません。
後日、ピックアップにいらしたお客様。
「すてき~。思ったとおりです。これだったら、荷物の少ない日のために、同じデザインでもう少し小さいのも欲しいわ、、、」
とのご感想。ありがとうございました。
Now Printing・・・

オーダーストーリー5
2003/10/05ストーリー5:鯉になる(?)お話
当店のオートクチュールは、お客様のご依頼によって「(今のところ現実に)存在しないもの」をお作りするわけですが、それだけに、デザインや仕様をお決め いただく時には、充分なコンサルティングを行います。
そういったなかで、第4話でお話したように、お客様との間に、考え方と言語の違いが生じる場面にしばしば突き当たります。
もちろん、それは決してどちらが良い悪い、ということではありません。
「あ、今日もメールが来ている・・・」
最近、手帳カバーのお問合せが、非常に多いのです。
毎日使うものこそ快適なものを、という方が増えているのでしょう。
メールには見事な図面が添付されています。それぞれのパーツの寸法まで、細かく指定されています。但し書 きに「ぬいしろなどは考慮に入れておりません」とあります。
すばらしい!
え~なになに・・・
「全体のサイズは、現在使っている手帳についているビニールカバーのサイズを測ったものです」
なるほど、まずチェックポイント①ですね。
「革の厚みは○○ミリにしてください」
ん?ポイント②
「糸の太さは太めで。ぬい目の大きさは○ミリで」
んん?これはポイント③
それにしても、痒いところに手が届くようなご説明です。
私としても、ポイントが明確にできるので、とても助かります。
ではゆっくりと、今度は私が職人言語でご説明しましょう。
まずはポイント①、全体のサイズです。
カバー全体のサイズは、中身のサイズから割り出してゆくのです。
素材が異なるので、ビニールカバーの大きさそのままでは、お作りできません。
手帳や本のサイズの測り方には、独特のものがあるので、それをお知らせして、これは簡単に解決しました。
次のポイント②ですが、これはかなり微妙な問題です。
この方は、いったいどんな目的で、革の厚みをご指定くださったのでしょうか?もちろんご指定どおりにお作りするのは、いたって簡単です。でも、それでお客様の目的は達せられるのか?というより、それがお客様のイメージどおりの質感になるのか、
少し心配になりました。
念のためお尋ねしてみると、「今使っている他のもので、良さそうなのがあって、それの厚みを測りました」とのこと。
素材が異なると、触感もちがうのですが、大丈夫かしら?
「それは、革をなるべく薄くしたい、ということですか?」
「はい。革は厚くて堅いものだと思うので、薄くて柔らかくしたいんですよ」なるほど。
「ご指定のミリ数でお作りするとして、革は使ってゆくと柔らかくなる性質を持っていますから、少しすれば、くにゃくにゃになってしまいますが、それでもよろしいですか?」
「えっ、そうなんですか!?う~ん・・・それだったら『ある程度』というくらいの柔らかさでいいんですが・・・」
「了解です」
ポイント③は、どうして、そのミリ数のご指定になったか、です。
厳密に考えると、(今回の例でいくと)13.5cmのところに4ミリのステッチをかけると最後の針目は合わなくなりますよね(まあ、最後のひと目を小さく してもいいのですが)。
「あのミリ数は、少し大きめの針目にしたい、ということでしょうか?」
「そうです。そのくらいかな、というイメージです」
「ひょっとして、手ぬいのステッチ風に見せたい、ということですか?」
「あ、そうそう、そういうことです」
「了解です!」
以上のやりとりは、お電話で、直接お話させていただきました。
そのときにうかがったのですが、このお客様は、企画のお仕事をなさっており、職人に発注する機会が多いのだ、ということでした。
「自分の仕事では、イメージを話しただけだと、とんでもないものが上がってくるので、具体的な数字がないとダメだと思っていたんですよ」
なるほど、よく耳にする話です。でも当店だったら大丈夫ですよ!
かくして、お客様にはご満足いただける製品ができあがったのですが、手帳カバーでこれだけのやりとりが必要でした。もしこれに、ポケットやらペン差しやらがついていたら、もっと細かなやりとりがあったことでしょう。コンサルティングの難しさが、おわかりいただけると思います。
たしかに世の中には、具体的な数値がないと、新しいものを作ることのできないジャンルや職人は多いでしょう。というより、そちらの方がはるかに多いですね。
でも、人は感覚の発達した生き物であり、「言語」というものを持っています。当店では、具体的な数字がなくとも、目的とイメージをお話くだされば、その感 覚を共有し、それをかなりの部分まで論理的に解釈していくことが可能です。
オーダーメイドをご依頼いただく際は、技術的な面はコンサルタントにまかせて、マナ板の上の鯉になっていただくといいのかもしれません。もちろん鯉になっていただくためには、板前との信頼関係を築くための、多くのお話合いが必要なことは、言うまでもありません。
Now Printing・・・

オーダーストーリー4
2003/10/05ストーリー4:模型のお話
あらためて申し上げるまでもなく、当店でオーダーをしていただく場合、模型は特に必要ありません。
皆様の頭の中にあるイメージをお話しいただいて、インタビューに正直にお答えください。
前日に、お電話でご予約いただいたお客様が、お越しになりました。
お電話のときに、少しお話を伺ったところ、だいぶお時間がかかりそうな雰囲気でしたので、このお客様のご予約時間は、3時間とたっぷりお取りしてありました。
「模型を作って来たんですよ!」
おおっ、すばらしい、なかなかの大作。外ポケットがたくさんついた横長のリュックです。
厚紙を使って、ちゃんと内寸となる寸法でお作りになっていて、バッグのどこに、いくつ、どんなポケットが付くのか、一目でわかります。
「ん!?」・・・でも、ご説明を伺うと、ご希望そのままにお作りすることはできないようです。ポケットの開閉をファスナー式にする場合、模型そのままの形だと無理があるし、そもそもポケットを付けるにも、縫い代やなんやかやで、全体の寸法も変えねばならず・・・
これはよくある勘違いなのですが、革製品の作り方というのは、プラスチック製品のような成型方法とはまったく異なるのです。
もともとフラットな革という素材は、ある程度の伸縮性はあるものの、他素材のような可塑性がないため、立体にしていくためには、いろいろと「しばり」が出てきます。
そうしたあれこれを、その模型を使わせていただいてご説明したところ(模型はこういうときにも役立ちます)、「なるほど。では、アタマから考え直しましょう」と言ってくださいました。
「そうすると、このバッグに望んでいらっしゃる機能は、○△なんですね」
「そうです。あとここの○○が△△だとありがたいですねえ」
こんな風にお話は進み、時にどちらを選択すべきか悩みつつ、少しずつデザインが決まっていきます。
リュックは、お客様の体格に合っていることももちろん重要ですし、ヒモの長さなども大切な要素です。
これらすべて、もれがないように終わったのは、5時間後のことでした。
さて、どうやってクラフツマンに説明しましょうか・・・
「こんな感じのお客様でね。年齢は○○才くらい、スポーティーなファッションで、ご職業がこうなので、通勤のときにこんな風に使います。一番大切なポイントは・・・」
「全体のサイズ指定がありませんよね。そうすると大きさはどれを中心に考えていきましょうか?」
「バッグ本体に○○センチX○○センチが入ること。外のポケットをすべて付けた上で、最小の大きさを目指すこと。あと、内側に枠芯をはめこむから、その厚みも考慮しないとね・・・」
やりとりは続きます。
実際に作り始めてみると、いろいろな問題が出てきます。
「このデザイン画どおりにすると、ファスナーの開閉が使いにくそうですが・・・」とクラフツマンよりFAXです。朝の打合せではわからない部分でした。
「どれどれ」なるほど、これは微妙なところです。
ここはお客様にとって、大切なポイントでしたから、お電話で状況をご説明したうえで、解決策をいくつか提案して、指示を仰ぎます。
このように、クラフツマン側からのフィードバックを仲介して、調整し、すり合わせてゆくのも、わたしの役目です。
それにしても、ここまで大変なのは久々でした。
ピックアップ時の、お客様の嬉しそうなご様子が忘れられません。
「何年かしたら、同じものを色違いで、バージョンアップ版をお願いしたいですね!」
お客様とのやりとりも重要ですが、デザイナーとクラフツマンとのやりとりにも、まったく気をぬけません。
あるバッグメーカーの人がおっしゃっていました。
「うちの社では靴も作り始めたけど、バッグを作っていると、靴を作るという行為がとても簡単に感じますよ。靴はバッグに比べてパーツもかなり少ないし、作り方も比較的単純なものが多いですしね。」
そうですね、同感です。バッグほどバリエーションの多いジャンルは、そうそうないのではないかと(手前味噌ですが)思います。
お客様にはお客様の、考え方と言葉があります。クラフツマンも同様です。
コンサルティングデザイナーの役割は、異国語を使ってコミュニケーションする人達にとっての、トランスレーターと同じなのだろうと、改めて実感しました。
Now Printing・・・

オーダーストーリー3
2003/10/05ストーリー3:スケッチ画のお話
あらためて申し上げるまでもなく、当店でオーダーをしていただく場合、設計図やスケッチ画は特に必要ありません。
皆様の頭の中に、ある程度のイメージがあればそれで大丈夫ですから、ご安心を・・・
ある時、小さいお子様をふたりお持ちのご婦人が、スケッチ画をご持参くださいました。
スケッチ画というのは、なくても全然問題ないのですが、もしあれば、そのお客様の意識していない、細かい好みまでもが表れたりするので、場合によっては、 百の言葉よりも雄弁なのです。
そのスケッチ画には正面図と側面図、上から見た図が描かれてありました。
「ん?」拝見してすぐに気付いたのは、そのままでは形にならない、つまりお客様の求める3つの機能を兼ね備えたバッグは、物理的に不可能であるということでした!
でも、そのスケッチ画からは、お客様が、そのバッグにどんなことをお求めなのかが、ヒシヒシと伝わってきます。なんとかお客様のご希望を叶えてさしあげたい。
「さて、どこから始めましょうか・・・」
まずは、お客様の欲しい3つの機能が、構造的にどうして相容れないのかを、ひとつひとつ、ていねいにご説明して、納得していただきました。
ただ、その機能の各々が、独立して成り立っているので、それぞれのデザインを少しアレンジすれば可能になることは間違いなさそうです。
その上で、どういった構造の、どういうコンセプトのバッグをベースにするか・・・これはわたしの決めることではないので、ベースに据えることのできるバッグのヴァリエーションを、3種類ほどわかりやすく図示して、選択していただくことにしました。
「すごくよくわかります」とのお返事で、あっという間にベースも決まり、そうなると細部もスムーズに決まり・・・
お受取りの日、すばらしい笑顔でお礼を言われたことをはっきりと覚えています。
「これで子供のものも全部入るし、いっぱいポケットもあるので、どこへ何を入れたかもすぐにわかります!」
それは、リュックで手下げバッグで、ショルダーにもなる、今まで誰も見たことのない、世界でただひとつのものでした。
バッグに限らず、わたしたちがオーダーをする時に、最も大切なことは何なのか・・・
前回のお話を書き終えたあと、更に考えていったのですが、それは①構造や素材を含むあらゆること、「作る」ということを、技術として熟知している人、そし て②経験豊富で親身になってくれる人、と納得するまで話し合えることだと、わたしは思います。
Now Printing・・・