2014.06.17
年代物ブリーフケースのお直し品
15年以上前にお作りしたメンズブリーフケースが
メンテナンスのため、戻ってまいりました。
こういったクラシカルなデザインは
最近ではとんと見かけなくなりましたが、
圧倒的な存在感がありますし、
当店では、カジュアルと仕事の中間感覚の
デザインでお作りしているため、
今のファッションにあわせても充分ミスマッチするうえ、
ここまで使っていただきますと
アンティーク感覚でお持ちいただけます。
しかしながら、昔お作りしたお品を拝見するたび
もの作りを取り巻く環境がどれだけ変わっているかを
実感いたします。
この昔のお品、じつはウラ地をお付けしていない
一枚革でお作りしています。
厚い革が、今とは違って
ふんだんに入手できる状況だったからという理由もありますが、
いまでは、軽さを追求するために
厚手の革を使えなくなった、ということもあります。
革の厚みに比例して
革製品の保ちは良くなり、丈夫なお品に仕上がるのですが、
もう重い鞄を求める人はいませんから
鞄作りの基本はすっかり変わりました。
重い鞄に比べますと、軽い鞄は
どうしても保ちが悪くなります。
そこで当店では、作り上、それが可能な物に関しては
革のウラ地を付けています。
革の表面がいちばん丈夫ですから
その表面をウラ地として使うことで、厚みを補っています。
また、狂牛病以来、肉骨粉のエサを使わなくなったことで
牛が小型になって、原皮も薄くなっています。
そして、小型の牛をたくさん市場に出すということは
養生期間が短くなりますので
キズの多い革が当たり前のようになり、
ほとんどのブランドが、
革の表面を隠す加工をするようにもなりました。
それが、革作りの技術を大きく変革させてもいます。
そんな中、量産をしない当店では
この頃の品質に近い革を、いまだに作り続けてもらっています。
今ではもっとも貴重な、すっぴん肌の牛革。
ほんとうの革は使っていくとどうなるか、
加工を重ねる前の、革本来の持つ
プリミティブな使い心地を追求しています。
革の表面を隠す加工も、美的に美しい物ができますが、
そうなってくると
素材が「革」である意味がなくなってしまうと
当店は思っています。
さて、この一番下のお写真が、メンテナンス後のバッグ。
人と同じく、
年経るほど輝きを増していく当店の革は
使い勝手と効率を追求する今の時代に逆行していますが、
手入れをすることで、長く残すことのできる
価値ある美しさを持っています。
エコの観点から、革工場のあり方や
染色材料の変化などが激しいため、この革を
いつまで作ることが出来るかわからない状況があります。
ほんとうにこうした革をお持ちになりたい方は、
早めにご決断いただくことをお勧めします。