革製品のオーダーメイド 銀座 オーソドキシー

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2014.02.13

革製品の寿命について

 

ある日、店頭にご年配の紳士がいらっしゃいました。

「お願いがあるのですが。今持っている鞄の取っ手に

カバーを付けていただきたいのですが、可能ですか?」

 

聞けば、某有名ブランドのカバ革を気に入って

いくつか鞄をお持ちだそうですが、それが最後のひとつになって、

ほとんど毎日使っているので、持ち手がダメになってきたとのこと。

 

そのブランドに修理を依頼したところ、

現在はカバ革の用意がないので直せません、と言われたそうです。

「それだけでなく、少しでも他所で直してしまうと、

今後もう直してくれないと言うので、途方に暮れています。」

 

 

革鞄のメンテナンス

 

(上は、10年ほど前にお作りした当店の鞄の、メンテナンス前後)

 

「一生ものの革だと言われたのに、

気を付けて使ってきたのに、たいして持ちませんでした。

革の在庫がいつもあるわけではない、保ちも悪いのであれば、

一生ものだなんて言わなければいいのに・・・」

 

たしかに 革製品のことを、何でも、

一生ものだと認識を持っている方も多いと感じます。

 

しかし、一生ものの革製品なんて、あり得ません、

 

というのが、正直なところです。

もちろん、ずっと一定の良好な条件下でお使いいただけるなら、

そう言える場合もありますが。

 

その紳士にお話したことをそのままお書きしましょう。

 

 

バッグの修理

 

(こちらも、当店鞄のメンテナンスの前後のお写真)

 

「まず、ブランド自身がなぜ一生ものを標榜するのか、お話しましょう。

ヨーロッパでハイブランドの鞄を使う方には、それなりの生活があります。

彼らは、たくさんの鞄をTPOで使い分けています。

ひとつの鞄の出番は、月に数回。

 

また、毎日持つ鞄であっても、

ほとんど自分で荷物を持たなくていい人達なので、

鞄の中には、ほとんどものが入っていません。

彼らはこうした使い方を前提としているため、

鞄がほとんど消耗しない、という状況があります。

 

そのうえ、荷物を持たなくていい、ということは

鞄の自重が重くても、ぜんぜん問題ない、ということです。

車で移動する方がほとんどですし。。

 

鞄の保ちは、その自重にほぼ比例しますから、

重く作っても問題ないのであれば、当然 丈夫に作れるわけです。

 

でも日本では、たいてい自分で持ち運びますから、

自重が軽くないと、持ち運びがしづらいものになってしまいます。

 

 

お財布のメンテナンス

(こちらも修理前後の当店財布のお写真)

 

そして、それだからこそヨーロッパでは、

日本でのフルオーダーメイドのように、たとえば

ものの入れ方を云々するような、仕様を追求するオーダーメイドではなく

持つ方のステイタスや個性を表す、

素材やデザインを強調するオーダーメイドになるわけです。

 

それぞれの分野における業態の発展は、当然、社会によって違います。

鞄のオーダーメイドというのは、その最たるもののワンジャンル。

日本には、日本のフルオーダーメイドが生まれる地盤があります。

 

ですから、まず最初に

革製品の使い方が、ヨーロッパとは違うのだ、と思うべきでしょう。」

 

こうした事実を念頭に置いて、

実は一生ものの革製品というものはないのだ、と認識することで

正しい革製品との付き合い方が身についてくるはずです。

 

ものを楽しめるのは、そのものを知っていればこそ、です。

 

フルオーダーメイドを使うときには、

100%物理的にすべての希望をかなえることは不可能だと認識し、

自分が優先させる順番を決めることが、大切です。

 

これは、紛れもない、自分にとっての逸品にするための、

一番重要なポイント。

こんなことを言う作り手はほとんどいないでしょうが、

作ること、使うことをまじめに考えると、

こうした結論にたどり着くのです。

 

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