革製品のオーダーメイド 銀座 オーソドキシー

Order example

2014.11.21

「その値段なら、ブランドものを買います!」

先日、クラッチバッグの見本を持って

ご相談に来たお客様がいました。

A5の入る、かぶせタイプのクラッチバッグに

背中には、当店のマイプレジャーのような形の

札入れ部分が付いたタイプをお持ちです。

実は、これは他店でオーダーしたものだそうで、

使ってみると不具合や気になる点がいくつかあり、

何度か作り直させたにもかかわらず

結局は思ったものにならなかったとのこと。

 

相談

 

具体的には、中にものが入っていないと

錠前が留めにくいことが一番のネックで、

一回目は前胴を硬くし直し

二回目にはマチを硬くし直してもらったとのことです。

それでも使いやすくならず

当店へはご注文のご意向でお出でになりました。

 

現物を拝見しましたが、おそらく職人は、

言われるがままに

そのお客様が提案したとおりの直し方をしたのでしょう、

結果的に、意味のない直し方になっていたことが

ちょっと気の毒でした。

何度もバラしては作り直した跡が、痛々しい感じです。

 

これはおそらく、その形を使った経験もなく

製作に関しても素人であろうお客様が、

出来上がったお品についての修正方法を提案し、

職人がその方法をそのまま採用したことが

失敗の元になっています。

 

最終的にもぜんぜん納得いかなかったそうですが、

プロの製作者が、素人の言うとおりに直しているのですから

それは当然の結果でしょう。

 

裁断

 

このお客様が支払ったのは、おそらく初回分のみで、

金額は5万円くらいかしら、と想像がつきました。

というのは、当店でのお見積金額に対してこうおっしゃったからです。

「それだったらブランド品が買えるじゃないですか。」

なるほど・・・「では、どうぞそのブランド品をお買いください。」

 

一世紀前の話かと思うお話ですが、つい先週の話です。

まだまだこういったお客様も少なくないのが現状です。

 

革製品のオートクチュール(フルオーダーメイド)が

どれだけ難しく、どれだけ過酷な仕事なのか

よくわかるエピソードだと思うのですが、

どうしてこういうお客様がいまだにいらっしゃるのかは

簡単に説明が付きます。

 

スーツでも靴でもワイシャツでも

いまや「自分だけの」オーダーメイドは当たり前。

それらのオーダーメイドは、どれも

細部のデザインやサイズが違っても、

中に入るものは、形状の決まった人間の身体の一部です。

 

縫製

 

ところが革製品の場合には

数え切れないほどのアイテムがあり

その中に入るものは、ほとんど無数!

その複合タイプまで考えたら、まさに無限のヴァリエーションです。

 

それほど難しいことをやっているのに

それをきちんと説明する人がいないから、

ふらりとご来店し、思うさまご自分の希望を述べた後、

その見積り金額を聞いてたいそう驚き、

それほどの値段になるのであればブランド品を買う、

という方も後を絶たないのです。

当初の「こだわり」は、どこへ行ってしまったのでしょうか?

 

自分の思い描いていることが、どんなに実現しがたいことなのか

また、それに対して

どれだけの人間がどれだけの時間を費やしているのかを

ぜひ、みなさまに知っていただきたいと思います。

 

どれだけ革製品のオートクチュールが難しいものなのか

知っていただくことこそが、

この難しい仕事を絶やさないための一助になればと思い

こうしたお話をいたしました。

 

もちろん、当店のすばらしいお客様には

いつも心からの感謝をしております。

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