革製品のオーダーメイド 銀座 オーソドキシー

Order example

2017.12.14

ひとつの財布を作り始めるまで

当店では、

革そのものがお好きな方や、

店内をご覧になるうちに

ご興味がわいてきたクライアントに、

デザイナーが時間のある時

革のミニレクチャーをします。

 

「最近お話ししてると、

こういうのがウケるのよ!」

などと無邪気な感想を述べている

デザイナーですが、

さすが満36年に渡る探求、

半端なものではありません。

 

そういうプロならではの話の内容は

本人には当たり前のことですから、

「こういう内容がおもしろいのね!」

と彼女自身、新鮮に感じるようです。

 

オーストリッチ皮革の表面

 

今日はそういうウケる話のひとつを

ここにご紹介しましょう。

 

一枚目のお写真は、オーストリッチです。

ダチョウの革、ですね。

 

残念なことに、一枚まるっと撮った

お写真はないので

説明だけになってしまいますが、

このプチプチのある面積は、

一枚の革の中に、どれくらいあるか

ご存知でしょうか?

 

答え:半分もありません。

 

世間的には

オーストリッチと言えば

このプチプチが価値のすべて、と

お考えの方がほとんどでしょう。

 

よく「革は高いですからねえ…」

という言葉を

耳にされると思いますが、

まず革のお値段には

1.見えるお値段(一枚の価格)

2.見えないお値段

があります。

 

1.の説明は必要ないでしょうから

2.についてご説明しますね。

 

革は、一枚単位で売られています。

 

特にオーストリッチのように

価値ある部分が一枚の半分もない革は、

一枚で売らないことには

とんでもないことになってしまいます。

(前回お話したような、

馬革とコードバンの関係に

なってしまいますね)

 

でも、実際にお仕立てする時には

より稀少な部分だけが

必要とされますから、

結局使える部分は

一枚の半分もないのが実情です。

ものすごいロスがあるわけです。

 

ですから残念なことに、

使われなかったその他の部分は、

高価な革にもかかわらず

その高価さに見合った利益を

生める革にはなれません。

 

そうしますとほぼ、

半分以下の面積=一枚の革のお値段

という図式になってきます。

 

まずこれが、

2.見えない革のお値段、にくくられる

ひとつの要素です。

 

オーストリッチ革の裏面

 

次の要素は、革の加工にかかる時間。

 

みなさまは、革って

買ってくる⇒仕立てが出来る、

とお思いではありませんか?

 

いえいえ、それは違います。

 

例えばこのオーストリッチ、

革の裏は2枚目のお写真のように

ぶわぶわとして柔らかく、

綿のように千切ることのできる

皮膚下の組織になっています。

 

この綿のような素材が

なんともやっかいで、

このまま裏地を付けてしまうと

でこぼこの

不細工な裏表面になってしまいます。

手触りも悪いですし…

 

そこで、3枚目のお写真をご覧ください。

 

人が手を使って、

革の裏面を整えています。これは

革の裏 全面が平らになるように

ぶわぶわを取り除いているのですね。

 

このぶわぶわ、雑に取ると

革に穴があいてしまうくらい、

表皮に肉薄し、一体化しています。

ですからこんな

「仕立て前の作業」であっても

気を入れて集中しなくては

革に穴を空けてしまったりなど、

悲惨な事態になります。

 

革はいったん穴を空けてしまうと

縫い直しは効きませんし、

仕立て直しもできませんし、

なんとも怖ろしい素材です。

 

やっとパーツを取る段階に入っても、

試練は続きます。

オーストリッチのプチプチ毛穴には

方向があるからです。

ああ~、なんて

デリケートな問題でしょう。

 

革の下加工作業

 

このように、革によっては

念入りな下加工を行わないと、

仕立てにすら

入れない革もあります。

 

クロコやリザードなどの爬虫類は

お腹や背中の真ん中で割きますから、

ぐるっと革を剥いで、

肩や足の付け根、首などまでが

一枚の革となっています。

 

キズもありますし、

工業製品でもありませんから、

どの場所でどのように

パーツを取るかも

毎回悩むところです。

 

クライアントのお顔や

性格や好みを思いながら、

「ここが良さそう…」と、

いったん裁断してしまったら

元には戻せない革を

慎重にカットします。

 

一匹一匹の斑柄も違いますが、

クライアントによっても

取り方を変えたりします。

これが当店のフルオーダーメイド。

 

オーストリッチの長財布

 

さて、そんな風にして出来上がったのが

このオーストリッチの長財布です。

 

後ほど改めてどんな仕様かを

お見せしますが、

この軽くてコンパクトな長財布、

出来上がるまでに

たくさんの工程を経ています。

 

このクライアントのためだけに、

ひとりの職人がずっと、

ぶわぶわを取り除いたり

型紙を作ったり

切ったり貼ったり縫ったりしています。

 

その職人が

たとえどれだけ時間を使おうとも、

出来上がった~~!と歓喜しつつ

その完成品は、たったの一個です。

これこそがフルオーダーメイド。

 

だからこそ

そのクライアントだけに

しっくりとくるお品が出来上がるのです。

 

当店でご注文くださる方は

ひとりひとりが、当店の職人を

一定期間雇っていただく、ということ。

 

それでこそ続く技術力の高さ。

ありがたいことです。

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