2024.08.16
お盆に寄せて 恐山と宿坊
お盆シーズンは毎年帰郷し、
涼しい故郷で夏をやり過ごしてきた
デザイナーですが、
両親ともお亡くなりになったら
「もう帰る家がない…」
と、お盆や年末年始はぼやいています。
「孝行したい時に親は無し、
っていう言葉があるのに、
ほんとにそれを実感するのは
”事後”なのよ、バカねえ…」
デザイナーがそんな気持ちの時
友人に導かれていった先が「恐山」です。
イタコの口寄せに行ったのかと思いきや、
「そこまでの度胸も無し…で、
宿坊に泊まって
ご住職代理のお話を聞いてきました。」
それが興味深いお話でしたから、
季節柄でもあり、お書きします。
*恐山菩提寺入口手前で。
ここのご本尊は、地蔵菩薩。
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恐山って、一般的に流布している
イメージとはぜんぜん違うな、って
思ったのが、今回の旅行に繋がりました。
何となくあそこは、暗く、重苦しく、
胸の詰まるようなイメージがありましたが、
少し前に、ある写真を見て…
スカンと抜けるような青い色が
空間すべてを覆うように広がった空に
象形文字のようにみっつ並んだ緑の山、
その下には波ひとつない紺碧の湖と
手前には白い砂浜があって…
その写真を見た時、
空気の澄んだ、
清い場所だと直感しました。
イタコの口寄せはしたいと思ったけど、
よくよく考えると、
信じてるわけじゃないから失礼でしょ。
*これが菩提寺入口。
私の友人が気の利いた人で、
「宿坊に泊まりましょう!」と
予約してくれたので、ご住職代理の方の
楽しくてすっきりするお話を聞けました。
今までたくさんの法話を聞きましたが、
これほどおもしろくて、分かりやすくて、
でも深いお話は初めて。
聞く人によって
どんな風にでも考えられるところが
すばらしかったです。
10代のころから永平寺で20年修業した、と
言ってらしたから、長い時間
たくさんのことを考えている方でしょうね。
おもしろいのがね、その方が
あれは鉄製かしら扇子を持って、
合いの手を入れるんです、
もちろんご自分で。
その扇子の扱いと音が
また迫力あって見事で…
一瞬、講談の高座に来ているのかと
錯覚してしまいました(笑)
*菩提寺の後ろにあるのが地蔵山。
出だしはイタコの話なんだけど、
こんな感じでした。
『ここにかかってくる電話で
一番多いのが、イタコ関係なんですよ。
でもね、菩提寺自身が、イタコを
雇っているわけではないんです。
私たちは場所をお貸ししてるだけで、
場所代もいただいてませんし、
イタコの名前も住所も知りません。
イタコはもともと
目の見えない女性の職業でした。
(菩提寺は、彼女らを助けるために
場所を提供していたのですね!)
みんなそろそろ90歳前後になりますが、
少し前にデビューしたイタコは
目の見える40代です。
ま、それはそれとして、とにかく
まったく関りないんですよ、イタコとは。
くれぐれも言っときますが。
だけど、すでにお願いした人たちや
これからお願いする人たちから
電話がジャンジャンかかってきます。
それはそれは大変です(笑)
私もね、ここに来た10年ほど前
同じ女性からクレームの電話を2度受けて、
それはこうして
話のネタにしてしまうくらいのものでした。
その女性は、イタコから
母親の言葉を聞いたのですが、それが
彼女の気に入らない内容だったようで、
「あんなイタコはさっさと
クビにしないといけません!」と
一方的にまくしたててきました。
それでしばらく聞いてたんですが、
彼女が聞きたかったことは、亡くなった
母親の財産分与の方向性だったのです。
どれくらい残して亡くなったのかは
知りませんが、兄弟姉妹が何人かいるので
どのように遺産を分けるか、
母親が亡くなってから揉めてたんだそうです。
こんなことを
口寄せで訊く人もいるんですよ。
みなさん、いいですか、
お金は残さずに使い切りましょうね!
たとえ50万円でも、残せば、揉めます。
亡くなりそうな時、もしまだお金があったら
どこへ贈ればいいかは…
わかりますね(にやり)』
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*恐山エリア中の景色。
たまたま鳥が飛び立ちました。
もうひとつデザイナーが覚えているのは
こんな感じのお話だそうです。
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恐山は
死者や霊のいる所ではありません。
ご住職代理は赴任した時、
山から賽の河原へと、その検証のために
幾晩も歩き回ったそうです。
結果、どちらにも出会わなかった。
いっぽう山を訪ねる生者たちは、
死んだ人のためにいろいろな供物を持って
遠路やってきます。
だから恐山はむしろ、死んだ方を想う
生者のためにあるのかもしれません。
死者に対する
その人の気持ちの行きどころを求めて、
お訪ねする場所なのだと思います。
「死」は死者にとって
やっと安らげる休息の場でもあります。
そしてここは、
「自分の大切な死者」に対する気持ちに
折り合いをつけさせてくれる場所、
ということかな、と思いました。
たしかにあのきれいな空気は
なんでも浄化してくれる感じだったもの。
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もう一つは
こういう話でした。
『いろいろな方とお会いすると
さまざまな話をするわけですが、
みなさん、一番聞きたいことは、
一番最後に訊いてくるわけですよ。
そしてそれは、みんな同じ質問なんです。
-人間は死んだらどうなるんですか?-
もうね、みんな訊いてきます。
でもこれはね、誰にもわからない。
だって死を経験した人はいないんだから。
-私はどうして生まれたのですか?-
-何のために生きているんですか?-
こういう質問をする人達もいます。
ひとつだけ言えるのは、
私たちは、
死ぬまで生きているんです。』
シンプルですよね、
唯一はっきりした事実だと思います。
周りの人たちに話したら、ほとんどが
「みんなそんな質問するんだ!」と
言って笑っています。
周りの人たちはみんな健全なんだな、
と思いました(笑)、良いことです。
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硬軟合わせてたくさんありました。
デザイナーは
「宿坊で珍しく一冊読んじゃったわよ。
軽いのだったけどおもしろかった。
法話の話題を深堀りできた感じです。」
宿坊はホテルのようなきれいさで、
温泉もどうやら
キズが治る泉質だったようで、
友人のひどい虫刺されの跡が
きれいになった、とのこと。
恐山はほぼ本州最北端にありますが、
宿坊に泊まると、翌朝
泊まった人のご先祖様を
12~13人の和尚さんが朝のお努めで
祀ってくださるそうです。
それはそれは迫力ある儀式とのことです。