2025.01.1
毎年お作りするジョーヌという黄色の長財布 41002
毎年同じ時期に同じものを
ご注文くださる方がいらっしゃいますと、
そろそろ1年が経ちつつあることを
時間的な実感として感ぜられます。
ありがたいことです。
年齢が上がるにしたがって、
親御さんの介護や
ご兄弟のご病気など、
自分自身にではない家族の変事に
対応している方が増えてきます。
仕事をしながら
そんな日々の対応をしている方々には
深い尊敬の念を抱きます。
こちらのクライアントから年に一度、
新年の無事を祈って
恒例のこの財布をご注文いただきますと、
私たちも気持ちが引き締まります。
何回かこちらのブログで
ご紹介していますが、
同じものをお作りするにも関わらず、
毎回毎回、製作上乗り越え必要な作業が
違う形で出てきます。
その中の大きな問題は、素材の「革」。
それは素材としての問題もありますし、
加工上の問題も存在します。
今日はそれについてお書きしようと思います。
お楽しみいただければ幸いです。
革そのものの問題はというと
まず、たとえ同じ名前の革であっても
ロットによって多少色ブレがあることです。
今回は前回よりも強めの黄色で、
クライアントに少しがっかりされました…
そして重大な製作上の問題は、
1枚1枚の革がそれぞれ
厚みも、革の癖もまったく違うことです。
私たち、人間、の肌質の
それぞれの違いを想像していただくと
わかりやすいかもしれません。
同じものは一つとしてありません。
まさに革は、「なまもの」と呼ぶべき素材。
一律に加工することのできる
工業製品的な素材が多い中で、
きちんと作ろうと思ったら、
製品の一点一点、
一つのパーツの部分部分にも、個々に
適切な個別の対処を必要とされますから、
もっとも難しい扱いの素材が、革です。
その「なまもの」である革を使う上で
さらに難しいのが、「厳しい漉きの技術」。
私たちが革の裏地を付ける理由は、
もっとも丈夫な仕上げ方法
「みがき仕上げ」をするためです。
ところが、
実際に長保ちするみがき仕上げ方法は、
量産品の製造工程で
行うことができません。
きちんとした磨き仕上げをしようと思えば、
存在する革の数だけ
加工方法を変えなくてはならないからです。
革には
大きく分けて、2種類の革が存在します。
それは、革のコバ(断面)を
みがける革か、みがけない革か。
別の言葉で簡単にご説明しますと、
素肌のままの革(磨ける革)なのか
塗装を施した革(磨けない革)なのか、
という違いです。
この違いがみがき仕上げの難易度に
大きく関係してきます。
*当店オリジナル牛革は素肌の革ですが、
市販品の革のほとんどは
みがけない革=塗装革です。
ちょっと乱暴に感じるかもしれませんが、
あえて「塗装革」と表現したのは、
素肌に肌理を無くす下地素材を塗り込んで
平らに整え、
何色を載せてもいい下地色にしてから、
その上にきれいな色をさらに一層塗って
仕上げるからです。
「塗装」という言葉のイメージで
革の製造工程を想像していただくと、
理解しやすくなると思います。
くれぐれも申し上げたいのは、
この分け方は、どちらが良い革/悪い革か、
という問題ではないということです。
単純に、革に望まれる要素が違うから、
それに合わせて
それぞれ作り方が変わっただけのことです。
そして分かりやすく説明するために
みなさんがもっともご想像しやすいであろう
言葉を使っただけのことです。
さて、この塗装されたきれいな色の革には、
革自体の表面に
塗装の一層がプラスされています。
それはほんの0.1ミリもない一層ですが、
それがあることで、革を薄く漉くことが
さらに難しくなっていきます。
なぜなら表に使うもともとの革の厚みは
デリケートな製品なら1ミリ~1.6ミリ、
裏地用は0.6ミリくらいの厚みですから、
かなり薄いのです。
*ちなみに本オーダー品の厚みは
表が0.5ミリ+裏地が0.4ミリ。
極限まで薄く仕上げています。
また塗装革は、革漉き機を通す時、
塗装物質によって漉き機の流れ方が変わり、
ものによってかなり流れにくくなります。
素地が肌理の細かいカーフやゴートだと
漉かれた後の革の裏面も
漉き機の下からうまく排出されてくれません。
かなり厄介です。
ハイブランドの革はその最たる例で、
そのために加工の手間が加わります。
*すべて違うみがき処理で仕上げた名刺入れ
そしていよいよみがき仕上げ、となれば
色塗装するための下地を作る素材、
そして色の塗装素材そのものも
革によってそれぞれ違いますから、
1枚の革の断面には、合計3種類の
性質の違う素材がくっついていることを
考慮に入れなくてはなりません。
この質の違う3種類の合わさった断面を
2枚(表革と裏革)合わせた面を
きれいに仕上げるのはどれほど至難の業か、
ご想像いただけると思います。
革製品は大雑把にザクザク作って
簡単なコバ処理をする方法でしたら、
効率よく作ることができます。
でもそれは量産品の作り方。
私たちの製品が
一般製品とまったく違うのは、
1/10ミリ単位の革の厚みの違いを扱い、
製品製作の全体も
同じ寸法単位で扱うからです。
そしてみがき仕上げでは、
表裏の革の組み合わせにもっとも適した
加工の仕方を追求しているからです。
毎回薄氷を踏む思いでお作りしている
この長財布ですが、
今年もきれいに仕上がりました。
私たちも無事な新年を迎えられそうです。
今年もお会いできて良かったです。
ご注文ありがとうございました。
どうぞ良い新年をお迎えください。
*ちなみに色の名前「ジョーヌ」は
フランス語で6月を意味します。
みなさまの新年がずっと
明るい初夏の季節のようでありますように。