2013.05.11
第870話:見本ありクラッチ
見本をお持ち込みいただいての製作、は
上手なフルオーダーの使い方のひとつであります。
フルオーダーをお受けする時 まず大切なのは、
その形がご注文者の使い方にあっているかどうか、ということ。
当店のコンサルタントは、
ご注文者の持つ、本人が自覚していないその人独自の使い方や
デザインの好みを探りますが、
その聞き取りで、欲しいタイプの像がぶれている場合には、
いったんお引き取りいただいて、
再度お考えくださるようお願いすることも あります。
その時には、「ここ」をお考えください、
と 問題点をはっきりさせます。
そうしないと、私どもいがくらパーフェクトにお作りしても
結局は使わなくなってしまい、
「オーダーなんて、高いだけで たいしたことないや・・・」
と、なんとも的外れな感想を持たれてしまいますから。
さて、またお話を元に戻しましょう。
見本バッグをお持ち込みいただくフルオーダーですと、
「見本があれば、作る事は簡単でしょ!」
と のたまうお客さまもいらっしゃいます。
(もちろんこのお客さまはそんなことおっしゃいませんが・・・)
プロは、なんでも簡単そうにやってしまうので
誤解されがちですが(笑、
見本があるといっても、けっして単純な仕事ではありません。。
むしろ、現物があるだけに
依頼者と製作者の間で、
話がすれ違っていることが見えなくなってしまう事態を
避けねばなりません。
たいていの見本品は 量産品で、
1回作って その回を売り切ってしまったら
二度と同じものを作る事がありませんから
ものによっては、
製作方法が、驚くほど変則的な(無理して作っている)ことがあります。
また、そうした構造や作り方だけでなく、
革の性質や厚みは それこそ 千差万別なので
同じように再現したいと言われたら、見本品の何を再現したいのか、を
まず探って行かなくてはなりません。
フルオーダー品とは、
その作り手の解釈を持って、
その人の持てる技術で作る事しかできませんから、
もし作り手の技術の幅が狭ければ
依頼者がびっくりするような「同じもの」が でき上がってきます。
お引き渡しの時 ご注文くださったお客さまは、
「いやあ、ほんとに同じに出来上がるんですね。。びっくりしました。
まさか こんな風にできるとは想像してなかったんで・・・
完璧です!すばらしい、ありがとう!」
このように言ってくださいました。
このバッグも、シンプルに見えますが
あれっ?というところが 多々ありました。
だいたい、この見本品は合皮でできていましたから、
素材の扱い自体からして、まったく違いますから、
普通は、出来上がりのデザインを変えるのが あたりまえです。
ですから
素材が違うという 大きなハンデを乗り越えて
(というのは、素材によって可能な加工方法が違いますから)、
受注者が「同じだ!」と感動してくださるものをお作りするのは、
簡単そうに見えて、
ものすごく 難しいことなんですよ。