2018.03.10
高級カジュアルボストンバッグ 71215
本日ご紹介するのは、
簡単そうに見えて
じつはかなり大変なオーダー。
出来上がった形は
お持込の見本とほぼ同じようですが、
丁寧なコンサルティングのおかげで
収まったデザインです。
このお品を通じて あらためて、
私どもも、コンサルティングの
大切さを知ったひと品でした。
「このバッグ、気に入ってるんですがね、
どうも今ひとつ
使い勝手が良くない。
柔らかすぎて
中に物を入れると形が崩れちゃう。
それで革も伸びてしまって
最初の大きさの倍くらいになっちゃって。
フタの大きさに対して
大き過ぎる感じもしますし、
とにかくなんとも使いづらくて…
でもデザインは気に入っているので、
このふたのパーツは
使えるのなら使ってほしいんだ。」
ひとつひとつのご不満要素の内容は
はっきりしてらっしゃいますが、
具体的にどういう症状があり、
どういう原因から
これらのご不満が起こるかは、不明です。
こういう内容は
クライアントにお尋ねしても
明快な回答が引き出せないのは
当然のことなので、
まずデザイナーが手に取り
頭の中でシミュレーションを行います。
その間、使いにくい内容を
イメージや感覚的な言葉でなく
具体的に解き明かし、
クライアントに確認していきます。
まずこのバッグの場合、
フタはしっかりした素材なのですが、
クライアントがおっしゃる通り
本体素材の革が
柔らかすぎることは確かです。
しかし、使いにくく感じる要素は、
革が柔らかいことばかりでは
ないようです。
製作方法がまずかったのです。
このバッグはイタリア製で
デザインはとても素敵なのですが、
どうやら鞄製造のプロが
企画したものではなさそうです。
確認しますと、
「ああ、これは洋服屋さんで
買い求めたもので、
そこが企画したものだったと
思います。」
ステキな形になっているのですが、
「使う」という観点からすると
あらら~という作りがいくつもあります。
洋服屋さんが扱う鞄は
デザインがすてきで、
最終的なファッションの決め手には
なりますが、
壊れやすかったり
使いにくいことが、ままあります。
さらに聞き取りを進めますと、
どうやら海外の高級ホテルを
よくお使いの方で、
そこで丁寧に対応してもらえる
バッグが欲しい、というご希望を
伺うこともできました。
たしかに現品の革は
正直、イタリア物としては
ちょっと安っぽい感じでしょうか。
まず素材を考慮したうえで、
「型崩れが著しい」原因となる
製作方法をすべて洗い出し、
それらを改良し
製作することに…
上のお写真は、現品の本体部分。
外ポケットのマチの厚さは、
さらに上の
当店のお品のお写真と比べると
ほぼ倍になっています。
こんな柔らかい革で
これだけの厚みを取れば、
形が変わってしまうのは当たり前。
じつは、洋服屋さんの提案する鞄には
ものを入れてはいけない、
という不文律があるのです。
おしゃれのためですから!
ですから、鞄にしっかりと
多くのものをお入れになる方には、
鞄やさんが作った鞄をお薦めします。
結果として、フルオーダーでも
タテヨコの寸法は
同じサイズでお作りしました。
そうは見えないと思いますが。
でも、見た目はずっと
小さく見えます。
また、使い勝手には
天と地ほどの差があります。
しっかり形が取れていますし、
それでもなおかつ
クライアントがご希望なさったように
柔らかく、少しふにゃっとしています。
形をキープつつ
少しふにゃっとする、という
相反する質感を得るためには
いったいどういう製作工程をふめば
可能になるでしょう?
そのへんの、ある意味感覚的な部分は
長年培ってきた感覚と技術、
としか申し上げられません。
当店の製作は、ただ作るのとは
訳が違います。
ここまで出来るスキルがあるからこそ
フルオーダーを続けられるのです。
やりがいのあるお題を
ありがとうございました。