2021.06.21
バッグやお財布製作の材料費や技術費について
今日は製作物のお値段について
お書きします。
頻繫にいただく典型的なご質問に対して
フルオーダーメイドの基本を
お知らせしようと思いました。
そのご質問内容とは
「素材を落として
安価に仕上げられませんか?」
というものです。
ご依頼者にとって問い合わせをする相手、
私ども、はプロです。
ですから
「看板を出しているのだから、
作れることが当たり前」という
スタンスでお問い合わせをくださると思います。
しかし、想像してみてください。
「プロとして、
その金額を頂戴するに足る品質を持って
毎回、ゼロから制作するご依頼品を
作りつづける」
ことがどれだけ難しいことか…
なぜ、ワールドワイドブランドが
フルオーダーメイドをしないか?
(していたとしても、なぜ
ごく親しい、購入金額の多い顧客にしか
そのサービスを行っていないか?)
なぜ、そういったブランドの
「お誂え服(オートクチュール)」
は、極端に高価なのか?
なぜ、ほんとうの意味で
フルオーダーメイドのお店は少ないか?
答えは簡単です。
「ご希望品を完成させること」
こそが難しい仕事だからです。
それだから
この仕事に携わることのできる人が
とても少なく、
少量しか対応することができませんし、
それぞれの完成度を保つために、
その人たちが
一点一点に注ぐ能力の高さも労力も
極端に違うからです。
まず最初に申し上げたいのは、
革製品のフルオーダーメイド品の製作では、
すべてを行う、という事実です
(当店においては
パターンオーダーでも、ここは一緒です)。
そしてそのどの瞬間にも、
出来上がり品の最終形と
ご依頼者の使い方をイメージをしながら、
途中途中で
細かい修正をどんどんかけていきます。
「満足していただける、より良いものを!」
「長くお使いいただけるように!」
を合言葉に。
そういう努力があってはじめて
一点の、イメージがまとまって
使い勝手の良い
ご注文品が出来上がります。
量産品のように
流れ作業で作れるものではありませんから、
必然的にこうした制作方法になります。
つまり、そのご依頼品をお作りする
一人ひとりの技術者による
「個人技」の高さによってのみ
生まれる産物なのです。
40年の間
たくさんの職人を育ててきましたが、
当店の「技術者」に成ることのできる人は、
ごくわずか。
それは、基本的な手先の器用さも
必要とされますが、
加えて、論理的な考え方ができること、
ひとつの技術の使い方を
多方面に応用できること、
技術に対して飛躍的な捉え方ができること…
などなど、
きれいに作れる基礎技術を持ったうえで
「考える力」を
たくさん必要とされるから、です。
手を動かすことが好きでも、
作ることが好きでも、
こだわりの細部にかける執念があっても、
バランスの良い、美しい製品を作ることは
できません。
ましてや、この仕事にもっとも必要な要素、
使う人に対する思いやりや愛情
(ご依頼者に対する気持ち)がなければ、
「今やっているこの作業は、
このオーダー品に適しているだろうか?」と
問うことはできません。
それがなければ、お客さまに
使い勝手の良さを味わっていただくことは
不可能です。
デザイナーも技術者も、
この気持ちがあるからこそ
長年にわたり習得した高い技術を、
一人ひとりのご依頼者に対して
毎回毎回毎回ギリギリまで使っています。
だからデザイナーはいつも
「命かけて作っています。」と
申し上げています。
どだい教えることの不可能な
貴重な技術を使った長い製作時間は、
材料を量産品の安価な革に変えたとして、
どれだけ価格が変わるでしょう?
これで、材料費を安くすることによって
どれほど価格が変わるかを、
ご理解いただけたと思います。
もちろんオーストリッチや
ゾウ・爬虫類などの
エキゾチックレザーは桁違いに高額なので
お値段に反映されますが、
輸入の特別な牛革でない限り、
当店で扱っている
品質のしっかりした革であれば
さほどお値段に変わりありません。
*当店で使っているすべての素材は、
量産品の素材とは一線を画した
品質のものばかりです。
*エキゾチックレザー類につきましては
革自体が高額なだけでなく、
加工もそれぞれ特徴的で
お手間がかかりますから、
それも高価になる理由となります。
「目に見える」革という素材を、
最高の状態の製品になるように
駆使することができるのが、
その技術者の「見えない」力量です。
また、一点一点のために用意される
それぞれの材料のために、
取引業者に対して細かい注文がなされます。
その注文の仕方ひとつとっても、
ここまで考えなければ…
という内容がふんだんにあります。
当店では、ご依頼者の方々のために
チームを作って、製作に当たっています。
「あなただけのチームを持つ」ことが、
フルオーダーメイド品が
「使い勝手がよく」「見栄えも良い」
最上であるための、
たったひとつの方法です。