2022.08.14
バッグを作る革は、どれくらいの量が必要?
小さなバッグから大きなバッグまで、
当店でお受けするバッグの大きさは
さまざまです。
当店でお作りするバッグは
素材も色も一点一点違いますから、
毎回ひとつのバッグに対して
その材料がどれくらい必要かを考え、
それに合わせて革を購入します。
*栃木レザーのヌメ革製作最中
みなさまは
オーダーバッグをひとつ作るのに、
実際に使用する面積(正味面積)の
何倍の革が必要だと思いますか?
革という素材は、
一枚の全体を使うことができない、
という事実が重要です。
答えは、当店特製牛革のスムースですと
正味面積の3倍以上を必要とします。
15年ほど前までは2倍強でしたが、
最近の革の状態ですと、
ついに3倍以上になってしまいました。
*バッグの型紙を載せて
どこでパーツを取るか、試しているところ。
手前側はほどんど製品にできない部分。
当店の特製牛革はすっぴんのお肌のため、
表面のキズが目立つところだけでなく、
皮膚の下のキメの整っていない
伸びの大き過ぎる部分についても、
決して使わないからです。
また、ここ5年ほどで、
避けられないキズもかなり増えてきました。
すっぴんの革は、歩留まりの悪い素材です。
量産品の材料として選ばれないのは、
この点も大きなネックとなっています。
でも、この革の品質の良い部分は
経年変化がうつくしく、良い手触りで、
使う人に合わせてうまく伸びて
馴染んでくれますし、香りもよいです。
同じすっぴんの革でも
型押しとなると少し話が変わり、
スムースの革に高熱と高圧をかけて
ぎっちりと型を押しますから、
革の密度が高くなって
繊維がしっかりしてくれるため、
歩留まりも良くなり、ロスも少し減ります。
それでも具体的には2.5倍くらいでしょうか。
表面に型が押されることで
傷がかなり目立たなくなることも、
ロスが減る大きな要因です。
*ハイブランドの革は型押しの範囲も狭い。
向こう側は型押しされてない部分。
さてそれでは、ここ数年お薦めしている
ハイブランドの革はどうでしょう?
これは想像しない結果だったので
今回の話題にしようと思いました。
こちらの原皮はカーフで
元の繊維はかなりしっかりしています。
クロム鞣しx化粧した革x型押し、のため
表面のキズはほどんど目立ちませんし、
さらに密度の高い革になっていますから、
私どもは最初、もしかすると
2倍くらいではないかと想像していました。
ところが…
けっきょく当店のスムースと同じくらいで
正味の3倍ほどの革が必要だと、
何年か使って結論が出ました。
まずとても興味深い点ですが、
海外の革の型押しは
全面に施されているわけではありません
(日本製の革では考えられません)。
そういう部分は製品に使えないこと、
それから
元々の革一枚が小さいこともあって
効率よくパーツが取れないこと、
などがあります。
このような条件を考え併せますと、
ファッションアイテムの中でも
バッグがなぜ高額なのか、よくわかります。
*本製品として使えない革の部分は
ダミーの製作に当てています。
材料だけでなく、
新作にはそもそも元型がありませんから
試作をするのに時間がかかりますし、
試作を試用し使い勝手を確かめ、
本製品にするまでの検討もあります。
また、最終的に本製品を決定するにあたっても
もう一度同じプロセスをたどることになります。
当店のオーダーバッグは、
そのすべての工程を経た一点一点を
みなさまにお渡ししています。
製作にあたっては
流れ作業で作るわけではありませんから
バッグ一点を作るだけでも、
すべての製作過程を作れる技術を持った
ひとりの熟練した技術者が必要です。
こうしたオーダー品一点をひとりで
きれいに作り上げることのできる
技術を習得するのにも、長い年月がかります。
仮にひとりの技術者しかいなくても、
アトリエには90×180センチのテーブルがひとつ、
ミシンが1台、漉き器が1台、
革の置き場ももちろんないといけませんし、
緻密な製品であるなら
出来ればこの2倍の什器が欲しいところもあり、
ある程度大きな製作場所がないと
作ること自体ができなくなってしまいます。
身に付ける製品の中で
バッグがもっとも高価になるのには、
こういった理由があります。
当店フルオーダーメイドのバッグを
お持ちになっているクライアントのみなさまは、
こうした細心のプロセス、紆余曲折の
すべてを手に入れていらっしゃるのです。
こんな事情もお楽しみいただけると
嬉しく存じます。