革製品のオーダーメイド 銀座 オーソドキシー

Order example

2003.10.5

オーダーストーリー2

ストーリー2:設計図ご持参のお客さまのお話

ある時、バッグの設計図を12枚ほどお持ちくださったお客さまがいらっしゃいました。
オーダーが初めてでいらっしゃるのか、ちょっと厳しげなお顔をしています。
さて、拝見してみると、設計図なだけに、個々の寸法は細かく指定されているのですが、全体を立体的に表した見取り図というかデザイン画はありません。ご本 人にはかなり具体的な完成形がイメージできていらっしゃるのでしょうが、わたしには、その内部のかなりの複雑さから、今ひとつ全体像が掴みづらくおもわれました。
「さて、どこから始めましょうか・・・」

お客さまとの話し合いは、終わってみると5時間近くが経過していました。
私が「あ、もう5時間近くたちましたね」というと「えっ、そんなに?!」
なにしろそれだけの時間、ずっとブレイクなしです。なのにお客さまはニコニコとして、とても満足気なご様子。お見積りをお出しすると、
「これだけこちらの希望を容れていただいて、それが形になるんだったら、まったく問題ありません。」
と、気持ちよくご注文いただきました。
そしてこんなお話をなさいます・・・

「実は、某有名ブランドにこれ(設計図)を持って、同じようにオーダーに行ったんですよ。そうしたら話を聞いてくれる人が次々3人変わって、3人ともが、ここができない、これもムリだ、ということで、最終的に自分の要望がほとんど満たされないバッグが形として提示されましてね。見積りもしてもらったんですが、そこでこう言われました。『まずひとつお作りいただいて、それを叩き台にして2つ目をお作りいただければ、もっと良くなりますし、3つ目には完璧なものになりますよ』って。それでたのまなかったんです。」

なるほど、このお客さまが入店の際に、きびしいお顔をなさっていた理由がわかりました。そんな事情があったとは・・・。

このお客さまの場合、ご要望の半分以上が、ご自分で独自にお考えになった機能でしたので、普通のバッグ作 りのテクニックだけでは、確かに実現不可能な形でした。したがって、わたしもあらゆるテクニックを総動員しなければなりませんでした。
ひと口に革職人といっても、その種類は、アイテムの数だけあると言っていいでしょう。意外に思われる方も多いでしょうが、ほとんどの職人は、ワンアイテム だけを一生涯作りつづけるのです。
例えば、ポーチ、ブリーフケース、札入、ハンドバッグなどは、すべて別ジャンルです。種々のテクニックを併せ持つ職人はめったにおらず、フルオーダーで バッグを作ってくれるところが少ないゆえんです。

それにしても、某ブランド担当の方の言う「3つ目は完璧なものが・・・」というのは、ある意味では正しいのですが、ある意味では全くまちがっています。
「ある意味で正しい」というのは、①その商品が、お客さまが使ったことのないタイプのものであり②作る側としても、初めての新しい試みがある、つまり双方 とも、それが使いやすいものなのかどうかわかっていない場合です。
「正しくない場合」というのは、その①でも②でもないとき、そしてもうひとつ、お客さまのご要望がほとんど満たされていない場合、です。
それは、受け手側のスキル不足に他なりません。

このお客さまは、お受け取りのとき、10分ほどもためつすがめつ確認なさって、
「完璧です!」と、ニコニコ顔でお持ち帰りになりました。
わたしにとっても「報われた」と感じる、いちばん嬉しい瞬間です。
また、このお客さまのお陰で、フルオーダーというものを、こうして言葉で表現できる機会を得ることができたのです。

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