革製品のオーダーメイド 銀座 オーソドキシー

Order example

2023.05.5

フルオーダー革製品の値段は、革代か技術代か?(5/13修正文)

クライアントのみなさまに

製作技術や革の加工について説明する時、

どのようにすれば

まったく違う世界の人々に理解しやすくなるか、

デザイナーはつねに考えているようです。

 

「今日は、車会社に技術でお勤めの

クライアントがおいでになってね、

すごくおもしろい話をしたのよ。

車作りの一端を聞いてたら、

これは説明に使える、っていうのがあった!」

とは、さきほどの発言です。

 

 

 

*本体持ち手の内側に
ファスナーポケットを付けたカバンに、
持ち手をつけているところ。

 

 

「一般的にほとんどの人は、

革製品を作る時、一番高いものは

素材の”革”だと思ってるの。

 

まあ、量産品を作ってるメーカーは

大量に作るわけだから、最終的には

素材の値段も大きい要素になるのだけどね。

 

でも彼らはそれ以上の努力で

無駄のない流れ作業に落とし込む、という

大変な経過も経て、コストに結びつけています。

 

だけどメディアでは

材料費ばっかりがクローズアップされていますね。

目に見えるものでわかりやすいから。

 

 

 

 

*細い紐に穴を開けるための作業。
革は失敗することができない材料だから
一つひとつの作業に確実性を求められる。

 

 

そのため、ウチみたいに

量産やパターンオーダーの会社とは

まったく違って、

制作過程が違うものばかりを

一点だけ作る

フルオーダーメイドのお店に対しても、

量産の最終努力の結果である

革の値段ばかりに目がいっちゃうのね。」

 

「でもね、

この店でオーダー品を作っているみんなは、

一枚一枚性質の違う革を

どうやってそのアイテムに適した質感にするか、

とか、

どうやって軽くても保ちの良い製品にするか、

あるいは、

どうやって触り心地の良い製品にするか、

とか、

 

一つひとつのまったく違う製品に対して、

まったく違う側面から毎回考えて、

部分試作だってたくさんするわけじゃない?

革以外の材料も死ぬほどたくさんあるから

知識と経験だけじゃなく、

考える力がないとできない仕事だよね。

 

 

 

*持ち手を胴体部分にシンメトリーに
付けることすら、簡単そうで難しい。
最初から最後までひとつの製品を
一人で作れる技術者は、とても少ない。

 

 

 

そんな作り手の姿を毎日見ているし、

わたし自身だっていつも

新しい角度からのアプローチをしてるし、

なんで一番高いものが材料だって思えるわけ?

って、作ってる側からすると、

いつも不思議になるのね。

 

他のお店とかブランドで

もっとたくさんのお金出しても

ぜったいに実現してくれないのにね。」

デザイナーは言葉を続けます。

 

「作ってくれるところがあったとして、

みんなが同じ材料を使うと仮定しても、

作る人によって

まったく違うものが出来上がるんだけど、

そこまで想像がつく人は

世の中にほとんどいないんだね。」

 

 

「…ということを、

やっとこんな風にわかりやすく

言葉にすることができました。

 

他業種のモノづくりの人と話すと、

自分のやっている仕事も客観的に見えて、

とても勉強になるからありがたい!」

 

 

 

*ハイブランドの革。
この2枚を貼り合わせてから、磨きます。

 

 

こんなデザイナーの発言からヒントを得て、

本日はきれいな色のハイブランドの革の

加工のしにくさについてご説明します。

その原因は

ズバリ、革の層と断面にあります。

 

 

革にきれいな色を出すためには、

表面塗装(敢えて塗装と表現します)層が

下地(したじ)層を介して

革素材としっかり密着することが必要です。

 

そういう作り方の革には、

しなやかに柔らかい革と

切り目仕上げ用の硬い革とがありますが、

当店で良く使うのは、

アイテム的に後者の方です。

 

 

 

*2枚を貼り合わせたところ

 

 

そのタイプの革の表面は硬く、

表面だけを考えると、

曲げにくい、という性質があります。

ところが皮膚から下の層は柔らかく、

上質な革であれば

みっちりと繊維が詰まっています。

 

 

その革の断面は、下から

皮下組織、表皮、

下地(したじ)層、表面塗装層という

性質の違う4層から成っています。

1ミリちょっとの厚みの中に

その4層がつまっていて、各層に

それぞれ向いた加工法がありますから、

この断面をどうやって美しくするかが、

大きな問題になります。

 

 

 

*完成した持ち手ベルトの磨き部分。
写真にはなかなか写しづらい素材のため、
この色の完成品をご覧いただきます。

 

 

ご説明した素材の切り口を

何となく想像していただきますと、

上の2層の特徴は、

革本来が持つものとは相反するものだと

お分かりいただけると思います。

 

当店特製牛革のヌメも硬いのですが、

断面が皮下から表皮まですべて革で

同じ加工をして出来上がった革ですから、

すんなりと磨くことができます。

それは、以下の革本来の性質を

活かして作っているからです。

・しなやかで一体の革なので

表皮ごと下層まで一緒に曲げられる

・引っ張れば上から下まで伸びてくれる

 

そんな理由から

同じ素材で、同じ性質を持っている

革同士を組み合わせるのであれば、

ナチュラルに加工することができます。

 

ところで、当店のデザイナーが

車の技術者のクライアントから聞いたお話は、

以下のような、まことに興味深いお話。

 

「異なる素材をどうやって接合させるかが

また難しいんですよ。

例えば、鉄とアルミのパーツを接合させるには

どうしていると思いますか?

 

答えは、

(常温の中で)合わせて置いた両方の素材に

高速でネジを通すんです。

そうすると中で発熱して、鉄もアルミも溶けて、

ネジを引き上げた時には

両方の素材が融合して、くっつくんです。」

 

おもしろい!

頂戴したこのご説明の核心部分を使って

今度はデザイナーがこの方に

革の素材と加工について説明したことは、

言うまでもありません。

 

さて次は、

どんなクライアントがいらっしゃるでしょう。

このたびは、ありがとうございました。

 

 

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