2023.04.27
がま口財布の製作の難しさ
本日は貴重な体験をお話しします。
久々に落ちた大きな穴です。
がま口財布の奥深さを知る
良い経験をいただきました。
フグを安全に食べられるようになるまで、
フグのどこに毒があるかを
身を持って知らせた人たちがいますが、
命はかかっていなくとも、
私どもの仕事における
一つひとつの積み重ねは、
それに匹敵するほど大事なことです。
今回は見本品があり、見本品のがま口を
再生使用することになったため、
良かれ、と思って下した判断では
製作セオリーどおりに作らない、
という結論になりました。
ところが、
ちゃんと作動している実物があるにも関わらず、
オーダー品ではそれがうまく作動しなかった!
という例です。
*最初にお作りした小銭入れのマチ幅
上のお写真のマチ幅は
見本品と同じで、
開き具合も同様にし、新品であっても
使い勝手の馴染みがあるようにしたもので、
通常の製作セオリーよりも
幅を狭くして作っています。
下のお写真は、セオリーどおりのマチ幅。
片側の部屋につき、現物より
1センチ広くしたただけのマチですが、
この寸法が一か所変わるだけで、
外側の全体パーツの長さまで
変えなくてはならない事態が起こります。
ですからこのお直しは、大手術。
でもこれで、がま口が
うまく作動するようになりました。
もし原因がわからなかったら
修理する方法もわからず、
時間ばかりが経って難儀していたところです。
*セオリー通りに広げたマチ幅
こちらのクライアントは、
お渡しから1年経って
「がま口金具が外れたので
直してください。」
とおいでくださいました。
普段、1年くらいで外れるような
ヤワな作りはしませんから、
どうしたんだろう?とよくよく見ましたら、
マチ幅が狭いことで
外側のパーツの長さが短くなってしまい、結果
見事にすっぽりと金具から外れていました。
「ああ、ここか…」
見本の小銭入れのマチがとても狭かったので、
クライアントに「使いにくくないですか?」
とお尋ねした時、「問題ありません。」
というお返事をいただいたので、
見本品のマチ幅を踏襲し、
使い勝手を同じに定めた、その場所でした。
*修正前のもので
金具からY字の付け根までの距離が短い
見本品がうまく作動していたことで
そのマチ幅でOKと思っていましたが、
そこが素材の革と布との違いでした!
というか、
布系の量産品をたくさん見てきて
いつも感じたことは、
わりとノリで作っているものもあり、
あまり理に適っていない製品も
少なくないということ。
そして多少大きかったり小さかったり
曲がっていたりするパーツであっても、
何となくつじつまを合わせて
うまくひとつの製品にしているものも
けっこうあります。
これは
革以外の素材の
加工のしやすさにも繋がっていて、
革では許されない誤差であっても
やすやすとそのハードルを越えます。
*修正後。マチを広くしたことで
Y字の付け根までの距離は
必然的に広くなる
今回のことでは、
またしてもフグ毒のような落とし穴を
知ることができました。
頭で考えた結果や、
ただいまある現物の使い勝手、と
それ以上の条件が絡み合っている
新製品の結果は、しばしば違います。
クライアントのみなさま、
もしこうした落とし穴がありましたら、
いつでもご相談ください。
このたびはご相談ありがとうございました。
次回から
がま口のマチはセオリーどおり、
を基準としますが、
それによって
現物と違うと感じる仕様になる場合には、
まずその部分をご説明することにします。
単に一点一点の製品を作る技術を
習得するだけでなく、
このような無数にある落とし穴を
一つひとつ潰していくことが、
フルオーダーメイドという仕事の中で
もっとも大変なところです。
そして、
二度と出会わないタイプの落とし穴の方が
圧倒的に多いことに、たまに
歯がゆい気持ちになることがあります。