2023.05.13
革になる前の牛と原皮の話:㈱栃木レザーにて
久しぶりに㈱栃木レザーへ行きました。
今回案内してくれたのは
当店の革を製作担当しているMさん。
Mさんは下地づくりから仕上げまで
みっちりやってきた壮年の熟練者ですから、
革に関する新しい情報をたくさんお持ちです。
創業1937年の㈱栃木レザーの
営業を続けてきた長いスパンの中では、
工場で使う薬剤の変化だけでなく、
法律が変わったり
牛の育て方が変わったり、と
ひとつとして同じ状況はありませんが、
そんな中でも良質な革を作り続けようと
彼らは日夜努力しています。
*タンニン層を移動させているところ
原皮はカナダのトロントから輸入してますが、
一時期はアメリカの革も試したり…
と、試行錯誤の末
結局トロントの原皮に戻ったとのこと。
20年ほど前から、日本では
2年半以内の肉しか輸入できなくなっていることや、
効率よく肉を育てるための高価な配合飼料を
なるべく使わなくて済むように、
30年ほど前まで
4~5歳で肉になっていた牛たちは、
現在2~3年で肉になっています。
飼料だけでなく、牛の扱いも変わってきていて、
ここの所ずっと
キズや虫食いの多い革が当たり前になったのは、
それまでの習慣が変わったからだそうです。
*鞣し工程20のうちの1~3
昔は、牛たちを小屋に入れる前に
塩素水プールに入れる習慣でした。
私たちがプールに入る前、
小さな塩素水プールにざぶんと入るのと
同じ感じだったことでしょう。
ですがその時、
塩素水を誤飲してしまう牛がいるため、
その行程は止められました。
効率を求めて習慣も変わります。
元々なぜ塩素水に入れるかというと、
蚊や虫に刺されてかゆくなったりすると
牛がイライラして暴れるので、
それを避けるためでした。
塩素水に入らなくなると
虫刺されが増え、
そのかゆみを抑えるために
地面をゴロゴロと擦ったり
暴れたりして、キズが増えているようです。
*この後乾燥させれば、下地革が完成します
原皮の出荷量や質は
今後どうなると思いますか?
とMさんに質問しますと、
「これからは、代替肉の出現によって
肉の消費量がどう変わっていくかが
関わってくると思います。」
前にも書いたように、
「皮のための牛」はいませんから
「肉のための牛」がどうなるかが
ポイントです、か、なるほど。
今の総合餌は
どれだけどんなものを食べさせると
効率よく肉が肥えるか、をテーマにしていて
「肥育」という言葉もあるくらいです。
まさに「肉のための牛」ですね。
牛という家畜は、肉を除かれた後
頭のてっぺんからしっぽや蹄まで、
すべての部位が有益に使われます。
他にこれほど活用される例は
あるでしょうか?
貴重な皮だからこそ昔から、
長く使える革の状態にして革製品を作り、
使い続けてきました。
皮から革へ、はすばらしい発見です。
今日は原皮のお話でした。