2024.01.14
オートクチュールとフルオーダーメイドについて
オーソドキシー のホームページでは、
かつて自分たちの仕事を
「オートクチュール」と呼んでいました。
オートクチュールとは
「高級御仕立服」のことで、
通常は洋服に対して使われる言葉です。
サイズを細かく調整することで
着る人を
もっとも美しく見せるラインを出し、
同時に
着心地の良いフィット感を持たせ、
着ていく場に適した
最高の見栄えを提供するものですが、
当店は、自分たちの仕事に
敢えてその言葉を使っていました。
残念ながら
「オートクチュール」という言葉が
一般的でなかった日本社会では、
それが何を意味するのかわからない人が多く
なかなか根付かなかったなったため、
3年前に作り直した新しいホームページでは
「フルオーダーメイド」という
最近市民権を得てきたと思われる言葉を
使うようにしました。
厳密に言えば、
もともとオートクチュールというのは
服飾業界の言葉でもありますし。
*映画「ディオールと私」より
オートクチュールコレクションの1シーン。
さて、それではなぜ私たちは
最初に「オートクチュール」という言葉を
選んだのでしょう?
それを分かりやすくご説明するにあたって
最適な映画があることを
デザイナーはたまたま思い出しました。
この映画を絶好のサンプルとして
当店の仕事をより深くご理解いただき、
ハイブランドの常連顧客の中でも
ごく一部の人にしか味わえない贅沢を、
みなさまも当店で経験していらっしゃることを
知っていただき、この奥深さを
愉しんでいただけると嬉しいと思います。
*2015年公開「ディオールと私」
映画パンフレットより
その映画とは「ディオールと私」です。
2015年公開(2014年製作)の映画で、
自身のブランドを持つラフ・シモンズが
ディオールのオートクチュールデザイナーを
していた時のドキュメンタリーで、
おもにアトリエを取材しています。
年間を通して
顧客に高級服をお仕立てしている
アトリエがもっとも忙しくなる時期は、
年二回のコレクションショー開催前です。
アトリエには
勤続30年、40年のベテランを含め
優れた技能を持つお針子がたくさんいて、
ラフの求めるイメージを的確に理解し、
求められたドレスのラインに
最適な方法は何だろうかと考えつつ、
コレクション製品を作り上げて行きます。
もちろん始める時には
どんなコンセプトの服にするかなどは
何も決まってなくて、真っ白な状態です。
*技術者一人ひとりが、自分の担当する
ドレスや分野に取り組んでいます。
こちらも映画のワンカットからの写真。
ラフ自身が何もないところから始めて、
ディオールというブランドにおいて
何をどのように表現するかを決めていき、
さらに自分が求めるイメージをまとめ、
納得できるデザイン服に仕上げていくのですが、
ショー開催までのすべての作業には
わずか二カ月しか時間がありません。
怖ろしい緊張感です。
映画の最後の方で涙するラフの姿が
目に焼き付いて離れません。
時に、最初に出来上がった試作を切ったり
色を塗ったりすることもあり、
紆余曲折を経て
最終形を追求していくのですが、
それはそれは厳しい美の追求です。
ショーの始まるギリギリまで
お針子たちは必死に製作を続け、
この映画のショーの前夜など
「もっとこのドレスには刺繍が欲しい」と
十人ほどのお針子が一晩中かかって
全員で刺繍をしていました。
もちろんすべてが細かい手作業です。
*デザイナーがイメージを説明する方法は
人によって様々。あいまいなイメージの言葉
からでもお針子たちは表現内容を捉えます。
新しく作るドレスのイメージや出したい
ドレスラインを理解し合いうことが、
完璧な製品を作る基礎となります。
映画「ディオールと私」より。
最終の詰めに入るまでに出来たものに対して、
今見えいるラインがそれでよいかどうか
矯めつ眇めつ確認し、
少しでも違うと思えば、何度もやり直します。
いまはアトリエの中での出来事だけを
列記していますが、
そこに布という素材を作る人たちが関わり
(この布選び、布製作は圧巻でした)、
布に刺繍する素材はもちろんのこと、
映画には出てきませんでしたが、
実際に着用して必要な場に出るためには、
芯材や裏地のことなどにも
特別な内容が関わってくることでしょう。
それこそ秘密の技術なのでしょうが…
*最初の打ち合わせはもっとも大切です。
完璧な製作にはたくさんの人が関わります。
映画「ディオールと私」より。
この映画を公開当時観たデザイナーは、
「うちとそっくりな厳しい作業やってる」
と思ったそうですが、それを使って
みなさまに当店のアトリエで起きていることを
お教えするのにちょうどいい、とまでは
思い浮かばなかったとのこと。
それをたまたまアマプラで再度観て、
「うちって、これとそっくりなことやってる」
とやはり思ったそうで、
当店顧客のみなさまには、
オーソドキシー で
こういうことをやっているんだ、と
知っていただければおもしろいのでは?
とこの映画をお薦めしようと思ったそうです。
フルオーダーメイドって何?と訊かれたら
それは和製英語ですし、
内容もあいまいですが、
オートクチュールとは、
デザイナーがデザインした
ブランド独自の世界観を持った洋服を、
顧客に合うようにサイズを厳しく合わせ、
時には少しの変更も加えつつ
一人ひとりの顧客にお作りすること、です。
当店が通常行っている一連の製作作業は、
まさにこれ!
しかもそれは
特別なコレクションショーのために、ではなく
一人ひとりの顧客に合わせて、
一点一点のオーダー品に対して行っています。
リクエスト内容に沿ってデザインしながら
実在の、使える製品に作り上げています。
なるほど!それで、「オートクチュール」と
呼びたかったんですね。
さらに当店デザイナーは言います。
「ぜひこの映画をご覧ください。
どこにも存在しないモノを
ゼロから産み出すには、
大きな意味でのファッションの
哲学的な考えの基礎はもちろん、
デザイン上の方向性の決定も必要です。
それがそのブランドの背骨となり、
共通して感じ取れる
ブランド独自の「ライン」を作ります。
私は、当店製品のデザイン意匠は、
持つ人の個性を生かしながら
その人のうつくしさや品格が見えて欲しい、
と思っています。
そして、製品の全体像を見ていただく時
これはおもしろい、と
愉しんでいただけるものにしたいです。
また、当店製品を使うことで、
その人の身体が楽になって
仕様や使い勝手に満足いただけることは
つねに心がけています。」