革製品のオーダーメイド 銀座 オーソドキシー

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2024.06.21

「革のゆらぎ」当店革製品のようなタイプが他にない理由 

さまざまな当店製品について

「どうして市販の製品には

御社のような製品がないんですか?

見た目に比べてずっと軽いですし、

使いやすいポケットも

良い位置にありますし。」

 

率直で素朴な質問として訊かれるのは、

とても嬉しいことです。

 

 

そこで、あらためて

量産品と当店オーダー品の

作り方の違いについて、

わかりやすくご説明しようと試みます。

これまでも

幾度となくその努力をしたのですが、

あまたの相違点に意気阻喪していました。

 

 

 

  

 

 

じつは今回は

基本的な型紙の作り方の違いについて

説明しようと書き始めたのです。

ところが、

その前段階から知っていただかないと

おそらくほとんどの方が

訳が分からないことになってしまうのに

気づき、さてどうしましょうか…と。

 

そこで、抽象的な内容になりますが、

量産品と当店製品との間に

画然としてある「ゆらぎの存在」について

書いてみようと思いました。

 

 

あえて「ゆらぎ」という言葉にしたのは、

製作方法の違いを具体的に辿って行きますと

数々ある根本的なことがすべて

その言葉に繋がったからです。

 

今回の「ゆらぎ」は「革のゆらぎ」です。

 

これを考えることによって、

なぜ当店で作っているような

ヌメ革のデリケートな製品が他にないか、

謎が解けるような気もしています。

 

 

 

  

 

 

さてでは、量産品の目的ですが、

これは、決まった形を、一定品質で

できるだけたくさん、短時間で作る、

ということ。

安価に提供するためです。

 

ところが当店のオーダー品は

(ここでは

再製作可能な定番オーダー品とします)、

該当製品を、なるべく美しく、軽く、

かつ丈夫に作ること、を目的としています。

 

*あくまでも「違い」であって
どちらが良いとか悪いとかの話では
ありません。

 

 

当店の製作方法そのままで

量産しようと思ったら、

「不確定部分=ゆらぎ」があり過ぎて

生産管理はおそろしく大変なものに

なってしまい、頓挫するのは確実です。

製作の基礎となる型紙製作法も、

その後の工程も、それほど違うからです。

そういう理由から、当初

型紙の製作方法について

お書きしようと思っていたのですが、

それにはその前段階のご説明が必要でした。

 

 

 

 

  

 

 

ではさきほど書きました「ゆらぎ」とは、

革製品の製作上で何を指すのでしょう?

 

それはずばり、第一に、

材料である「革素材にあるゆらぎ」です。

 

私どもでは

製品を組み立てる前の一つひとつのパーツを

手断ちで裁断しています。

同じ形をいくつか作る時であっても

そのような愚直な方法を採るしかありません。

それはなぜでしょう?

 

 

 

 

  

 

 

 

定番用の当店オリジナル牛革は

100%シブ鞣し、水染めのヌメ革、

最終的な色調整も

水染め仕上げをしています。

 

同じロットの革であっても

一枚一枚で硬さや厚みが違いますし、

その1枚の中の部位によっても

同様の違いや、多少の色ムラ、

それだけでなく

表面から見えない革組織の緩みがあります。

 

ですから、作業時に目視しながら

品質の良い場所を厳密に選んで

パーツを取り出す必要があります。

 

 

 

  

 

 

 

ナチュラルな製法で作られている革には、

布やプラスチックのような工業製品を

扱う方法では取り扱うことのできない、

物理的な「ゆらぎ」があります。

 

私どもは、

この革だけが、品質の良い部分で

パーツを取ることによって

良い経年変化を産む革となることから、

 

もし当店の革の製法を変えることになれば

プリミティブな製法で作られた

優れた革のポテンシャルを

下げることになってしまう、

と考えています。

 

この当店特製牛革の製作方法は、

いまでは結果的に

革が革らしさを失っていく方向に

製法がどんどん変えられていく昨今、

出来る限り残しておきたい、

ほんとうの経年変化をする

革の作り方だと思っています。

 

 

 

  

 

 

 

いっぽう量産品では

革を細かく見ながら…ということ自体が

ナンセンスな工程になります

(革を見る目のある人員が要りますし

当然、時間がかかります)。

 

ですから、その解決としてまず

革の表面そのものをきれいに整えます。

そしてどこからどのパーツを取っても

表面からは違いが見えないようにします。

 

そして、そのきれいに整えた革から、

機械を使って

なるべくたくさんのパーツを取り、

さらに部分的に薄く漉く等の

加工をマニュアルに沿って機械で行い、

製作の順に則して用意します。

 

私どもでは、切り出したパーツはそれぞれ

革の硬さや厚みにけっこうな誤差があるため、

同じパーツであったとしても、必要に応じて

規定の数値とは違う厚みにすることも

少なくありませんし、

誤差がありすぎる場合は

革裏地自体を変えて調整することまでします。

 

 

 

  

*小物の型紙に書かれた注意事項。
デリケートな私どもの製品は、
注意深いレシピから生まれます。

 

 

 

このように、ひとつの製品パーツを

目的に適ったパーツに仕上げるために

まず革に見合った的確な製作方法を選び、

パーツそのものを

一つひとつ作って行く方法を採っています。

 

これも「革のゆらぎ」があるためで、

同じような質感に仕上げるために、

毎回製作方法を変えなくてはならない

などということは、

工業製品ではまず考えられません。

 

しかし同じヌメ革でも

この「ゆらぎ」をないも同然にできる

製作方法があります。

 

そのひとつが、

革を厚いまま使って裏地をつけない、

昔からこの革にとって主流である製作方法です。

厚さがあれば、

「ゆらぎ」の影響はほとんど受けません。

そのぶん重さと厚みは出ますが。

 

また、革の表面をきれいにすることで

表面問題も解決できます。

それにはたいてい、

多少の顔料を使って仕上げる方法が

使われています。

 

このように

扱いやすい厚みにして

表面がきれいな1枚革で作られた製品は

市場でたくさんご覧になれます。

 

 

 

 

 

 

それとは反対に、私どもの革を使って

私どもの製法できっちり作るには、

たくさんの種類の材料と

驚くほどの時間がかかります。

 

なにより、

今回の革素材はどう扱えばいいか?

何を使えば軽く、

丈夫にできるか等を熟慮し

製法自体を変えながら作ることなど、

誰にもできることではありません。

 

なぜヌメ革製品で

当店でお作りしているような製品が

少ないかは、以上のような点が

ポイントになるかと思われます

(当店ではヌメ革以外の製品も

同様の製作方法を採っていますが)。

 

 

 

 

 

 

要するに

作る人の替えが容易になるように

材料そのものを変えていく方法と、

 

素材も作る人も替えの利かない

革そのものの個性を生かす方法、

技術者の技術に頼る方法、との違いです。

 

今回は革のゆらぎについて

お話ししましたが、具体的に

イメージしていただけたでしょうか?

 

一つひとつの製品が

何を目指して作られているのか、

 

また

あたりまえのような表情で存在する

当店の製品群について、

完成品が出来上がるまでの

さまざまな具体的な工程や、

 

この特別な技術が、毎回

ご依頼者ひとりのためだけに

使われていることを知っていただき、

みなさまに愉しんでいただければ幸いです。

 

 

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