2013.07.06

革の品質のお話: 当店特製牛革

 

以前、当店で扱っているような革を使った製品は、

なかなか市場に出回らない、というお話をしました。

それはなぜでしょう?

 

それをご説明するためには、

まず、素材である牛革の基本を、お話しなくてはなりません。

時代とともにどんどん変わっているのが、素材を作る現場です。

 

 

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「皮を取るのための牛」というのは存在しませんから、

革製品を製作する革の元になる「皮」は、肉牛の廃物です。

肉牛をさばいた後の皮を買って、

製品にするための革へと、加工します。

 

 

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狂牛病の発生から、もう随分と時間が経っていますが、

こんなに時間が経っているのに、革の製作現場が、

こんなに影響を受けることになるなんて、誰も想像し得なかったことです。

 

 

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当店は30年以上フルオーダーの仕事をやってきたのですが、

その間、革を作る現場に、継続して立ち会ってこなかったならば、

この変化には、気付かなかったことと思います。

 

 

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狂牛病になって、一番変わったのは、牛の皮の質。

厚みが薄くなりましたし、

表面のキズがすごく増えました。

 

それは、肉骨粉を牛のエサとして使えなくなってから

起こってきたことで、

はっきりと目に見えて牛の原皮が変わって来たのは、

ここ5年くらいが顕著でしょうか。

 

肉骨粉というのは、飼料としては栄養がふんだんでしたから、

それがトウモロコシなどの穀類に変わったことで、

同じ年の牛たちが、以前よりずいぶん小さくなってしまいました。

 

雄牛が肉として処分されるまでの年数はだいたい決まってますから、

小さくなった牛で、肉の供給量を変えないようにするのであれば、

頭数を増やすしかありません。

そうすると、いろいろな部分で、やりくりが必要になります。

 

じっさい、当店の原皮の供給元(北米の牧場)では、

養生期間が、6ヶ月→1ヶ月に、ぐんと短くなってしまいました。

おそらくそのルールが定着したのは、前述した頃かと思われます。

 

 

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そういうことで、

放牧時についたキズも治らない状態で、皮として売られますから、

それまでとは、まったく違います。

栄養が潤沢なら、皮にも栄養がいき、厚みも出てきますし、

養生期間は、あればあるほど、キズが治ってきれいな皮になります。

ところが、

今の原皮の状態では、これまでと同じようにていねいに鞣しても、

キズは残ったまま。。

 

それで、キズを隠すための加工が、最近では主流になってきました。

 

エコ的な観点から、タンニンなめしこそ主流になって来ましたが、

革のキメを整え、素肌の美しくなるタンニンなめしの鞣し方を使っても、

最終的に、ファンデーションのようなおおい(顔料)を掛けてしまうのは、

そのためです。

 

もっともハイブランドなどは、さすがに

すばらしい表面加工の方法を編み出しますから、

新しい技術が生まれる状況になり、それは歓迎すべき点だと思います。

 

しかし、むかしからの、ほんものの革にとっては、

かなり苦しい状況です。

当店のように、逆に、少ししか作れないお店でないと、

この品質を保つことは、できません。

 

量産品で、たくさんの量を安価に提供する必要があるものには、

とくに使うことはできない染色方法だからです。

同じタンニンなめしの革を、

量産品に使うのであれば、

顔料をたくさん使って、一般的な革質に持って行くことが不可欠です。

 

 

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そういう革に仕上げますと、

みなさんがよく革のイメージとして持っている

「使って行くほど良くなるのが 革ですよね!」

という革とは、どうしてもかけ離れて行きます。

 

革の染色には、顔料を使わなければ使わないほど、

革の味が出てくるからです。

 

いいとか悪い、とかいうことでなくて、

これが、現在の牛革を取り巻く現状です。

 

当店の特別牛革は、

まだまだ顔料のパーセンテージをかなり低く抑えていますが、

この革のタイプを、

どのくらい長く作り続けることができるのかは、分かりません。

 

 

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特別な贅沢のためではなく、

昔の革は、みんなこうだったにも関わらず、です。

 

使った方がどんどん良くなっていく、

昔からの伝統な作り方をした この革だけが、

使う人とともに生き、アンティークの宝石のように育っていきます。

 

そういう美しい経年変化をとげる「この革」以外、

お客様ひとりひとりに、

フルオーダーでお作りするにふさわしい素材は、考えられません。

 

この革の作り方が、うまく残って行かれるよう、

みなさんも願ってくださいね。