2022.06.7
素材が重要か、製作技術が重要か…
アトリエでおもしろい話が出ました。
その日は研修で
技術者たちはみな、取引先の
高品質なエキゾチックレザー専門店を
お訪ねしていました。
「さすがにきれいな革ばかりでした。
時代でしょうね、あんな多色展開なんですね。
カラフルな色は、やはり人目を惹きます。」
*クリアカラーのクロコダイル革
「オーナーはエイの革がお好きだそうで…
それも特別なエイのものが。
見せてもらったお財布の革は、さすがに
あまり見たことのない、うつくしい柄でした。
その財布を拝見した時
すごくおもしろいな、と思ったのは、
メーカーさんに作ってもらったという
そのお財布が、
革の存在感がすごく良いのにもかかわらず
安っぽく見えたことです。
*エイの革(当店では加工しません)
最近もっとも入手困難の革は、
ゾウ革とコードバンでしょうか。
久しぶりに工場生産の財布を見ましたが、
量産品の作り方って
どうしてみんな同じに見えるんでしょう?
高価な、あんなにすばらしい革を使ってるのに。」
それを聞いていたデザイナーが
「あ、それは別の例でもあります。
量産品用の革を使うと、
うちで1本だけで作っても量産品に見えるの、
デパートの平場に置いてあるイメージというか。
それはそれはがっかりしました。」
と答えたことで、
侃侃諤諤の議論となりました。結論は、
「まず、素材なんですね!
でも、製作方法も外せない要素ということ。
良かったです!うちは両方大丈夫です、
うちだけのベーシック色の特別革もあるし、
ヨーロッパの色革もありますし。」
*カーフのカラフルなフランスの革
自社ブランドの特別革はデザイナー自らが
つねに品質管理をしていますから、
大きな問題が起こることはありません。
しかし、色革は違います。
外部の製作革を購入しているからです。
日本は、革を消費する国=量産の多い国
ではありません、それで昔は
「ハイブランドと同じ革工場の革」
という謳い文句で売られている高額な革でも、
ずいぶんと劣る品質の革が結構ありました。
*つい先日入手できた
すばらしいゾウ革のネイビー
こんな品質はいま、めったにお目にかかれません。
また日本製の革ですと、むかしは
きれいな色のものは劣化が激しかったため、
「何年かすると褪色すると思いますが、
それでもよろしいですか?」
とご説明してからご注文を受けていました。
何とかならないか、といつも願っていました。
もちろん今は、日本でもすばらしい革を
作ることができるようになっていますから、
店頭でご紹介する革は
どこの革であってもまず間違いありません。
*姫路製のステア牛の革
革の原産国はブラジルで
ドイツのボックスカーフ製法をアレンジ
今回の技術者たちのその表現に、
デザイナーはとても喜んでいます。
というのは、量産品とオーダー品との
言葉にはできない、
しかし明確な雰囲気の違いを、
きちんと目で理解できていたからです。
骨董屋さんが、跡継ぎを育てようと思ったら
その人には一流の品物しか見せない、
と聞きますが、当アトリエで
常に良い素材を使い、
きちんとした作り方をすることで、
そうした「モノを見分ける目」が育つことが
実証されたようなものだからです。
「良いものに接する」ことを
毎日使うもの、身に付けるもので実行すると、
「良いものを見分ける目」は
いつの間にか育ってくれます。
ひとそれぞれの「当たり前」は
そういう意味を持っています。
誰もが同じ「当たり前」はありません。
「見分ける目」を持つことができれば、
自分が買う品物についての正しい価値判断も
同様にすることができます。
お買い物は本来、楽しくて
便利で気分の良い生活をもたらしてくれる
ステキな行為です。