2023.11.30
最終キャリアのための革鞄は、リセ風リュック 2309N
「そろそろ手提げの鞄を
重く感じるようになってきました。」
30年以上
お手持ちのすべての革製品を
当店でご注文くださった
76歳のクライアントがおっしゃいました。
最初にこのタイプでお作りしたのは2010年、
この容量と仕様では
最高に軽量で使いやすい鞄になったと思います。
この時のこの方は63歳でした。
このタイプ、と表現したのは、
出張の多いクライアントが
PCを含むすべてのお荷物を入れられる
出張用カバンとして、
(結局は毎日ご愛用くださいました)
当店で初めてデザインし、
その後形を変えてお作りしたからです。
次にお作りしたのは、2016年
(クライアントは69歳)。
この時は、「この鞄はとても使いやすいので
手放せないのだが、
もう少し軽くならないだろうか?」
というご依頼をいただきました。
入れるお荷物の総重量や
革素材であるという事実から考えますと、
もっと軽くできるかどうかは
何とも言えませんでしたが、
結果として、200gの軽量化に成功しました。
このようにクライアントの年齢を
書かせていただくのは、
「年齢の変化によって変わって行く
体力と革鞄の在り方」を
みなさまにお知らせしたいと
思ったからです。
この方は、ちょうどこのシリーズの鞄の
一代目をお作りしたあたりから、
一般社団法人 熱中学園を起ち上げ、
それを現在、「食の熱中小学校」に発展させて
地方と東京を結びつける
動きをしていらっしゃいます。
年齢に関係なく、やりたいことがあれば
ますます発展できる、という
すばらしい例と存じます。
そういう方からずっとご依頼いただけるのは、
まことにありがたいご縁です。
そのおかげで、
この職業をしていても考えもしなかったこと、
=「人の加齢と革鞄の在り方」を
リアルに体験することができます。
それは、私どもに、
人の一生のどの段階であっても、
それに適した革製品を作ることができる
観察眼と技術をもたらしてくださった、
と思います。
ありがとうございます。
もちろん性別によっても、
個人個人によっても違いはあります。
しかし、全般的にどのように
体力が下がって行くか、
それはどんな生活の人ならどうか、
といった一人ひとりの生活習慣にも
関係していることが、
このクライアントへのインタビューから
よくわかります
(お出しになった本に書かれています)。
話が逸れましたが、
二代目は、少し前に拝見した時には
くたっと急に疲れていました。
お尋ねしますと、
「ここのところの雨続きで、
4~5回びっしょり濡らしてしまいました。」
二代目には
ワックス加工をしっかりしましたが、
さすがに6~7年 毎日お使いいただき、
仕上げに
4~5回びっしょりと濡れてしまいますと、
霊力も落ちてしまったようです。
この1年ほどは、
「もっと軽くしたい。」と
一代目をリュックにしたりしましたが、
それもがっつりとした事故で
壊れてしまいました。
革製品には、普段多用している方に
しばらくそれを使わない時期が訪れますと、
急に劣化してしまう、という特徴があります。
それもあって、この回の加工部分は
事故に抗えなかったのですが、
どなたさまも
この事実をぜひ、頭の隅に置いてください。
そんな経過がありまして、
「やはりリュックが欲しい。」というお話に
なりました。
軽くするのであれば
リュックはタテ型がお奨めですが、
「ジャケットに合うデザインで、
ヨコ型がいいです。」というリクエストが
ずっと変わらなかったため、
お似合いになりそうで
少し懐かしい感じもする「リセ風リュック」
に仕上げることにしました。
下のお写真は、
ジャケットxジーンズのクライアントです。
こちらは、リセ風そのものにしてしまうと
おしゃれなことはおしゃれですが、
使い勝手が面倒になってしまいます。
そこで、ワンタッチで開け閉めでき、
スマホは本体を触らずに取れるよう
外ポケットにお入れいただくことに。
これ以上の内容のリクエストもありましたが
(例えばペットボトルを
外ポケットに入れる、など)、
それは、デザインを崩さないために
ある程度我慢していただくことにしました。
このリュックは外縫いですが、
外縫いを選んだのは、
こちらのクライアントの今までの
鞄の使い方やクセなどから、です。
肩紐の付け方も
体格に合うよう、お作りしています。
長いお付き合いをいただきますと、
そんな細かい対応をすることもできます。
「前のバッグより少し重いですが、
背負ってしまうと気にならないです。」
大変すみませんが、この形ですと
どうしても重くなってしまいます。
それでも全重量1,450gです。
一代目をリュックにした時と同じくらい。
リュックとしてお作りしましたら、
多少荒い使い方であっても
バランスを保ちながらお持ちいただけます。
リュックはリュックとしての、
手持ち鞄は手持ち鞄としての
力のかかり方がありますから、
それぞれの使い方に応じて
それに耐えられるように作る必要があります。
「これが自分にとって
最後の革の鞄になるかもしれません。」
いえいえ、おいくつになっても
きっとあまり変わらずにお過ごしと思います。
ますますのご発展をお祈り申します。