2023.12.20
革製品の製作に欠かせない、「革漉き」という工程
革業界の中には、
特殊な技術が必要な独立した職種が
いくつかあります。
「革漉き」は中でも重要なひとつ。
最終的に革製品を作るうえで
「もしこの工程がなくなれば、
製作がかなり困難になってしまう」
という業種にもかかわらず、
存続が心配な業種です。
*文章中の革漉きでは、大きな機械の
丸ごと1枚漉きについて書いていますが、
お写真と説明文は、小さな機械を使った
部分漉きの説明です。
*部分革漉き用の、個人が持っている機械。
右側の銀色部分が円形の歯になっていて
それが回ることで、革を削いでいきます。
革は、もともと原皮→革になるよう鞣して
整え、そこから染色することで
加工可能な素材となります。
その後 革の厚みの調整をしながら、
靴やバッグ、財布やジャケットなどが
作られるのですが、
できたばかりの革の厚みは
3~5ミリ、
あるいはそれ以上あることもあります。
またそれとは反対に、
革として出来上がった時に
0.3ミリくらいのうすうすの革もあります。
*黄色のテープを貼った部分が
革の厚みを調整する「押さえ」です。
押さえの右側にある刃が見えますか?
刃は抑えの下全体を回っていて、
この写真で説明すると、革は
手前から奥に送り出して、漉きます。
ご自分がお持ちになっている革製品を
革だけの厚み、
という目でご覧になってみてください。
どんな革製品にも
芯材やクッション、裏地などがありますから、
革自体の厚みはさほどないことに
お気づきいただけると思います。
元々の厚み、3~5ミリから
そこまで薄くするには、どうするでしょう?
*これが革を漉く作業の始まり
最初のぶ厚い革をまるごと、
それぞれのアイテムに必要とされる
厚みに、ざっくりと漉くことが、
「漉き工場」の仕事です。
大きな機械を使うのですが、
依頼者からは、10分の1ミリ単位で
厚みを指定されます。
1ミリ以下の指定になりますと
かなりの技術が必要とされますから、
そういう注文は受けないという業者もいます。
*漉いた後の革は
機械の右側に、薄くなって現れます
機械を使うのだから
誰でもできるようになるか?
それは無理で、
同じ年月機械調整をしてきても
できる人とできない人に
分かれてしまう業種だそうです。
だから、名人と呼ばれる人も現れます。
それは、この機械の調整方法が
マニュアルにしきれない内容だから
とのこと。
もともとの革1枚の厚みだって
部分部分で違うのですから、
想像に難くありません。
*漉く前の上の革は1.6ミリの厚さで、
下の漉き終わった革は0.5ミリほど。
先日紹介した黄色い長財布のパーツです。
そういう習得の難しい仕事なのに、
恐ろしく安い値段で取引きされています。
それには大きな革を漉く時の
リスキーさも関わっています。
大きな革がもし、ど真ん中あたりで
漉き機に喰われてしまったら…
それも考え併せますと
ますます大変な仕事です。
デザイナーは以前から
「もっと高い金額で
やってもらうようにしないと
そのうち引き継ぐ人がいなくなってしまう」
と言っていたのですが、一昨年
ある大手が火事に合い、仕事がストップし、
ここ2年以上その影響が出ています。
つい先日は、この間まで頼んでいた
小さめの業者さんも
2社が閉じてしまいました。
*上のお写真と同じ革。
これほどの薄さにまでうまく漉くのは難しい。
この例のように、
その現場が無くなってしまったら
作ることの出来なくなるもの、
というのはきっと他にもあると思います。
とくに当店のように、
特別なオリジナル牛革や
同じものの無いエキゾチックレザーなどを
1枚単位で漉いていただきますと、
一回一回調整していかなくてはならない
機械を扱うことで、
自ずと技術の高い人が必要となります。
*革の大きさや質によって、
この革の左上のように
部分的に機械に喰われることがある。
店頭で「オーソドキシーさんが
いつまであるかと思うと…」と
ご心配くださる方もいらっしゃいますが、
私どもの仕事は、
今回ご紹介している「1枚の革漉き工程」が
無くなっては、継続できないかもしれません。
所属する一人ひとりの技術者たちが
すべての革製品を作れるスキルを持っている
当店も、われながら貴重だと思いますが、
それが成り立つためには
さらに他の人々のご協力が必要です。
願わくばそれぞれの仕事が
長く、良い状態で続くことを願っております。
もっと違う形で
モノを作るようになるのかもしれませんが、
人の手でモノを作ることが
無くなってしまったら、と思うと、
暗澹たる気持ちになります。