2022.12.10
当店特製牛革について
本日は、私どものオリジナル革について
お話をさせてください。
デザイナーは「製品は、
アイテムが何であっても、素材が命。
良い革でなければ作っても意味ないかも…」
とよく言いますが、
それはまさに製作技術者たちも感じていること。
10年以上前まで、当店技術者たちが
きれいな色の革を使った製作時に感じたのは、
「色がきれいでも安っぽい革を使うと、
出来上がりは、まるで量産品のようになる。」
ということでした。
なぜかというと、それまでは
きれいな色の革で、品質の良い革が
あまりなかったからです。
ここ3~4年
海外からハイブランドの革そのものが
入るようになって、きれいな色の革も
すばらしく存在感のある素材になりましたが、
それまでまあまあ満足のいく革は
ほんの少しでした。
それで過去には、当店のオーダーでは、
色革についてはしっかりご説明をしてから
ご注文をいただいていました。
それが今では、ご予算さえ許されるのでしたら、
きれいな色でも
すばらしい存在感を持つお品を
お作りすることができます。
たくさんの方々のおっしゃる
「革は使うほど味がでますよね。」
という認識はもちろんですが、
私たちに、そうした革の存在感や、
革の良しあしを判断する目を育ててくれたのは、
当店特製牛革の「ヌメ」と「ルバル」です。
対象物が何であっても、
ゆるぎない「見る目」を育てるには、
ホンモノに毎日触れ、実際に見ることしか、
方法はありません。
五感を育てるにあたり、
革は持って来いの素材のひとつ、と
お考えいただいていいと思います。
手触り、香り、見え方。
どれもデリケートな感覚を育ててくれます。
誰にとっても、いつも自分の傍にあるものが
その方の「当たり前」になります。
この当店特製牛革は、㈱栃木レザーで
特別レシピで作ってもらっていますが、
35年の間少しずつ変化しながら
同じ品質を保つ努力をして、
引き継いでいただいています。
ところが、思いもかけぬ狂牛病の影響や
エコ基準の変化、
そして人の働き方の変化などから、
この品質を保つことは
だんだんと大変になってきました。
そして今、この2種類の特別革の製作は、
革の開発と改良をしてくれてきた技術者が
いつまで仕事ができるか、にかかっています。
その方の年齢からして、
いったいいつまで作り続けられるか?
と15年ほど前から言われ続けていますが、
それがそろそろ現実味を増してきました。
これまでも
原料となる皮素材の変化が大きくなったため、
いつまでこの品質で作り続けられるか
と言われながらも10年、20年と
ご厚意を受けることができてきましたが、
いよいよ残された時間は、少なそうです。
この革は、使う側のみなさまから
「この手触りを知ると、他の革は使えません。」
「香りが良いので、つい鼻をくっつけます。」
「この革に触っていると、気持が落ち着きます。」
「使っていってのキズの治り方がスゴイ!」
「カッコよくなっていくんですね。」
などとご感想をいただいておりますが、
作る側からの評判も、また格別です。
当店ではスクールも開講していますが、
革が大好きでマニアックな生徒さんたちからは
「出来上がってみると、
他の革よりずっと高価に見えます。
そしてとても仕立てやすい革なので、
自分の実力よりもきれいに仕上がります。」
このように言われます。
これは、当店の革に
どんな形にも対応して加工できる、という
かなり特殊な特長があるからです。
まさにこのふたつの特長が、
私どもの特製牛革の目指してきたもので、
そして、それはもう完成の域に達して、
継続する段階が長く続いてきました。
ですが、
先々どこまでこの革を作ってもらえるか、
何とも予測できない状況が
リアルになってきました。
この革で何かを作りたい、
というご希望がありましたら、
なるべく早く
おいでいただくことをお勧めします。
まずは色数が少なくなっていくと思います。
今日は店頭で、他業界の方から
おもしろいお話を伺いました。
紙のお話です。
昔は出版社ごとに紙が決まっていて、
当時は出版社の数だけ
紙の種類があったそうで、そうすると
紙を見るだけでどこの出版物かわかったようです。
ところが今では、
紙の種類がどんどん減って
どの出版社もほとんど同じになったとのこと。
販売数に応じて種類が減ったりすることは
どの業界でもいくらでもあります。
それをさせないためには、
まず買い手が必要です。
しかし革素材の製作に関しては、
買い手が十分いたとしても、
技術を受け継ぐ人がいないことには
作り続けることが出来ません。
当店が行っているフルオーダーメイドも、
やはり、技術を受け継げる人がいなければ、
仕事として続ることはできません。
素材の製作においても
製品の製作においても、
革は、個人の技量に、
製作のすべてがかかっています。
クライアントのみなさまには、
受け取っていらっしゃる製品一つひとつが
どれほど貴重なものの集まりかを
あらためて知っていただけると、
ありがたく存じます。